暴走環状線
〜警視庁対策本部〜

「では最初に紗夜、昨夜の事件を頼む」

(はぁ…全く、変わらんなぁ咲は)

空席にため息をつき、ふと出会った時のことを思い出す富士本。

「昨夜、目黒区を運行中のバスが、バス停で停まった途端に爆発。そのバス停で降りるはずであった、宮崎美穂 33歳が直撃を受け死亡。自宅マンションはすぐ側で、採取した毛髪から本人と特定しました」

悲惨な写真が映る。

「酷いな…」

「使用された爆弾は、やはり液体爆薬で携帯を利用した起爆装置、速度メーター。前の2件と同じものです。それから…あ、咲警部!」

鑑識班の武藤が、奥のドアから入って来た咲と淳一に気付いた。

「浜田智久のアパートで採取した毛髪から、先の1人は特定。加藤吾郎については、住所不定だったけど、彼の面倒を見てた蔵島組の組長に慰留品を確認してもらい、間違いないってことよ」

(あ〜気持ちわる…)

(やっぱり…そうなったのね、全く)
淳一を睨む紗夜。
目を合わさない淳一。

「それから、咲さんが浜田の部屋で見つけたこの写真ですが…」

昴が4人一緒の写真を映し出す。

「両端が、浜田と加藤。女性は昨夜の宮崎。あと1人は久米山勝 33歳で、住所は宮崎美保と同じで、恋人同士の様です」

「4人は知り合いか…しかもこの写真の様子じゃ、かなり親しかった様だな。それで、久米山は保護したのか?」


「その必要はありません、富士本課長」

会議室前方。
ステージを挟んだ扉の前に、黒服の男が1人。

「突然にすみません。警視庁公安部の戸澤公紀《こざわきみのり》です」

「公安部だって!」
(あっダメ、吐きそ…)

普段なら喰ってかかるシーンである💧

「はい。てこずってる様なので、上から協力を命じられました」

(昴…)
(はい紗夜さん、《《読め》》ません)

警視庁公安部。
国家をも脅《おびや》かす事態に対処する組織。
活動内容は秘匿《ひとく》で、実態は知られていない。
機密性と高度な情報収集能力が要求されるため、警察組織の中でも相当上位の者となる。

会場の空気が一変した。

「続けても?」

「あ…ああ、よろしく頼む」
あの富士本でさえ、対応に困惑している。

戸澤がメモリーをPCに差し込み、久米山の資料を表示させた。

「彼は今、府中刑務所に服役中です」

「刑務所?何をやったのだ?」

「誘拐ですよ。もっとも、直ぐに捕まりましたけどね。余罪もあり、懲役に。だから《《今は》》安全です」

(全く心が乱れていない)
(嘘じゃなさそうね)

昴と紗夜は、戸澤の心理に集中していた。

「但し。彼は明日で刑期を終え、出所することになります。」

「何だって!」
公安と聞いただけで気に入らない咲。

「ご安心ください。彼は我々公安部が責任持って護衛しますので。これ以上犯人の好きにさせたら、警察の面子《めんつ》は地に落ちますからね」

「何だと、偉そうに❗️」

「咲、やめなさい!」
富士本が一喝して止める。

「戸澤さん、どうして彼が狙われると分かったんですか?」

「ほぅ…君は確か心理捜査官の紗夜刑事…でしたね。活躍の噂は耳にしています。我々は公安部ですよ。それが答えです」

(試されてる…)

「ちゃんと答えてください」

昴もそれには気付いていた。

「昴、無駄だ。こいつらは必要のないことは、絶対に漏らさねぇ」

淳一に向かって、軽く会釈する戸澤。

「では、私はこれで失礼します。くれぐれも我々の邪魔はしない様に、お願いしますね、富士本課長」

(嫌な笑み…)
紗夜は、僅かな違和感を感じていた。
彼が唯一見せた感情である。

メモリーを抜き、部屋を出て行く戸澤。
引き止めても意味はない。

「鑑識班、あの写真はまだ?」

「はい、あります」

「指紋を採取してください」

「紗夜、どうして……! あなたまさか?」

「咲さん、あの写真で4人の関係が分かりました。できすぎだと思いませんか?」

「公安部が仕組んだ…と言いたいのか紗夜?」

「それは分かりません。そうする意図が見えませんから。でも、不自然な気がするんです」

「紗夜、公安もこの事件を最初から追っていたのかもな。もし奴らが仕込んだとしても、指紋を残したりはしねぇぜ」

「公安じゃなく…犯人かも知れない…ってことね、紗夜」

「はい。昴、戸澤さんを調べてみて。富士本さん、警視庁に確認できませんか?」

「誰の指示か、ってことか?聞くだけ無駄だ。公安の情報は秘匿《ひとく》特権で守られている。下手に探ると危険だ。昴も気をつけるんだぞ」

「私は、府中刑務所へ行って来ます」

「淳一、一緒に…おい…どこへ行った?」

「と、トイレだと思います💦」

近くにいた1人が答えた。

「全く…💧」(富士本&紗夜)


思わぬ人物の介入で、進展仕掛けた捜査が、さらに撹乱されたのであった。


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