暴走環状線
〜東京 府中刑務所〜

法務省東京矯正管区に属す日本最大の刑務所。
通称「府刑」。

現在、2800名もの囚人が収監されている。

「まさか、またここに関わるとはな」

「堺…清治…」

シリアルキラーに翻弄された東京。
二度と忘れる事はない地獄であった。

受付に向かう淳一を紗夜が止める。

「…酒臭いでしょ❗️車にいて」
(全く、もう)

「警視庁刑事課です」
手帳のバッジを見せる。

「ご苦労様です」

「久米山勝に面会をお願いします」
(えっ?)

「ついさっき、保釈金が振り込まれて、迎えが連れて行きましたよ。明日出所だと言うのに待てないのかね〜」

「誰が?車は?」
(ダメか…)

「刑事さん、ここのルールはご存知でしょう」

「そうですか。失礼しました」

直ぐに車へと戻る紗夜。

「おいおい、そんな簡単に諦めるのか?」

「黒のBMで、スーツの男性2人。かなり若くて…銀行…?久米山に警戒した気配はなし」

彼の頭に残っていた残像を読んだ。

「どういうことだ?少なくとも公安がBMは使わねぇし、保釈金払うはずはないな」

「戸澤のヤロウを出し抜くとはな」

「とにかく、まだ10キロ圏内にはいるはず。昴に周りの監視カメラで捜索して貰いましょう」

「富士本さん、誰かに先をこされてしまいました。久米山はもういません」

「まさか!出所は明日では?」

「とにかく彼が危険です。黒のBMWを府刑から10キロ内の監視カメラで探してください」

「分かった。昴と、情報システム部門にも応援を頼んでみる」

「よろしくお願いします」


結局足跡は見つからず、久米山の居場所も、連れ去った者の正体も目的も、全く掴むことはできなかったのである。



〜警視庁公安部〜

「何だと❗️」

相沢の怒鳴り声が響く。

「まさか、出所を明日に控え、今更誰が高い保釈金を払ってまで…」

「私達の動きが読まれているとしか…」

戸澤が悔し気にデスクに手をつき俯《うつむ》く。

「仕方ない、裏で指名手配をかけろ!」

「しかし、それでは…」

裏の指名手配。
公安が標的に対して、虚偽の罪を乗せ、あらゆる裏の情報網を使い、密かに指名手配する手段であり、標的は確保より、見つけ次第に抹殺の命となる。

言わば、死人に口なしである。

賞金をかけ、ヤクザや賞金稼ぎなど、裏社会へも指示を出す最終手段であり、当然闇に葬られることになる。

「500万もあれば十分だろう」

「そこまでする理由は?」

「ヤツは危険人物だ。それに、これ以上あの爆破魔に殺らせる訳にはいかん」

相沢参事官の焦りが、それだけではないことを感じる戸澤。

「分かりました。特殊部隊を投入します」

部屋を出てドアを閉める。
相沢が誰かに電話をしている声が聞こえた。

(フッ、おもしろい)
無表情な中に微かな笑みが浮かぶ。
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