暴走環状線
〜目黒区〜

夜の高級住宅街。
紺色のパーカーを被り、ジョギング中の男。
バス停で立ち止まって、時刻表を確認する。

塀の中で鍛えた体は、息一つ乱れていない。

(ここで、美穂は…)
悔しさと後悔が自らを責める。

ふと顔を上げ、高層マンションを眺めた。


「行け」

戸澤の指示で、自転車の警官が通りかかる。
咄嗟に目を伏せる久米山。

少し行きすぎた警官が、自転車を停め、久米山へ振り向く。

それを、そっと覗き上げる。

その背後に立った戸澤。
手袋をはめた手から銃が火を吹いた。

「バンッ!」

「グッっ…何で…」

足を撃ち抜かれた警官が膝を突く。
驚いて振り向いた久米山。

「パン!」

2発目の銃弾が、彼の心臓を撃ち抜いた。

倒れかかる腕を掴み、彼の利き腕に最初の銃を握らせ、警官を狙う。

「ま、待ってくれ!どう… 」 「バン!」

警官の額を撃ち抜いた。

久米山の体を捨て置き、素早く警官のホルスターから銃を取り、弾を一つ抜く。
抜いた穴に、自分の空の薬莢《やっきょう》を装填し、握らせて1発適当に撃つ。

「パン」
その手が地に着いた時には、戸澤の姿は狭い路地の闇へと消えていた。

音を聞いた住人が、恐る恐る現れる。
その1人が警官に走り寄った。

「水口さん、水口さん!誰か早く救急車を❗️」

近くの交番に勤務する警官である。
それは、僅か1分余りの出来事であった。

(コンプリート)
闇の中で1人笑みを浮かべる。



〜警視庁特別対策本部〜

昴は、ずっと裏サイト『デス・トレイン』の意味不明な書き込みを考えていた。

「あっ、また」

『20 8 5 5 14 4』

新しい書き込みが流れた。
急いで書き取る昴。

そこで、刑事課の電話が鳴った。

「はい、警視庁刑事課」
目黒署からであった。
素早くスピーカーに切り替える咲。

「目黒の住宅街で発砲事件発生!警官1人と男性1人が死亡。至急出動願います」

(目黒…)皆んながそう思った。

「淳、紗夜よろしく❗️」

急いで部屋を出て行く2人。
昴が首を傾《かし》げる。

(もしかして、このサイトは…)



〜目黒の現場〜

殺人事件とは無縁の住宅街。
その同じ場所で、爆発と銃弾に途絶えた愛し合う2人の若い命。

「咲さん、やはり久米山でした。近くの交番に勤務する警官と、撃ち合いになった様です」

「分かったわ。昴が話しあるみたいだから、早々に所轄に任せて帰っといで」

「分かりました」(あれ?)

いつの間にか、豊川が来ていた。

「豊川さん、まだ休んでいた方が…」
事件の全容を聞いた彼が、じっとしているはずはなかった。

「紗夜、不自然だな」

「えっ?」

「疲れてんじゃないですか?どう見ても、彼女のマンションを訪れたところに、ばったり巡回中の警官とでくわし、撃ち合った。でしょ?」

「警官の自転車は、向こう向いて、あそこだ。不審者と思い、振り向いたところ、足に1発。膝が擦れてるから、片膝を着いた。まさか警官から先に撃つ訳はないからな」

「で、撃ち殺された。だろ?」

「どっちが、どっちを?」

「えっ💦えっと、警官は2発撃ってるから、次は警官かな…?」

「あんな離れたとこへか?」

「威嚇射撃とか?」

「この距離で、足撃たれて、威嚇する余裕なんて、俺には無理だな」

紗夜は、豊川の矛盾に気付いていた。

「もう1人…いた」

「ああ、間違いねぇ。次の1発で、警官は額に、久米山は心臓に。どんぴしゃり同時に撃ち合えるか?アリエねぇな」

「プロの殺し屋並みの腕ね。2人ともそいつが撃って、撃ち合いに見せかけた」

「なるほど。で、だれが?」

(それをわざと分かる様にした…なぜ?)

「淳、帰りましょ。昴が何か見つけたみたいよ。それに…豊川さんも話しがある様だから」

豊川が紗夜を見て頷《うなず》いた。
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