暴走環状線
〜警視庁対策本部〜

紗夜達が帰り着くのを待って、刑事課に、鑑識部、化学捜査部、未解決事件特捜部、情報分析部の主たるメンバーが集まった。

「では、始めましょうか」
富士本が落ち着いた声で仕切る。

「残念だが、これで10年前の誘拐犯の4人全員が殺害されてしまいました。これ以上犯人を好きにさせる訳には行きません。皆さんよろしくお願いします」

「まず鑑識からですが、咲さんが浜田智久宅から採取した4人の写真は、彼のものではありません」

「やっぱりね。あの状況で、目立つとこに飾ったりはしないはずよ」

「彼の指紋は一つもなく、代わりに、久米山勝の指紋だらけでした。あれは久米山が持っていた写真です」

「それから、情報分析部で同じく浜田宅から持ちか…いえ💦《《採取》》したPCですが、あれにも彼の指紋はなく…と言うか、誰の指紋もありませんでした」

「そして、開かれていたのが、これです」

昴がPC画面をモニターに映す。

『デス・トレイン』

「俗に言う配信者が特定できず、排除もできない裏サイトです。通常は東京都内の駅の監視カメラに映った、人身事故の生映像が流れています」

「心理学的に読むまでもなく、都内の人身事故に関与、或いは…深い恨みを抱く比較的若い年代の者と考えられます」

「紗夜、ただのハッカーの愉快犯では?」

「淳一さん、私も最初はそう思いました。でも、時々意味不明の書き込みがあるんです。例えば、最新のものは、丁度久米山が殺害された後にこれが」

書き取ったメモをサブモニターに映す。

『20 8 5 5 14 4』

「昴さんから聞いて、過去のログを追ってみると、その数時間前には、これが」

『11 21 13 5 25 1 13 1 27 13 5 7 21 18 15』

「こんな暗号めいた数字が、調べてみると、違う色で時折り書き込まれています。もしこれが暗号で、会話なら、4色だから4人と言うことになります」

「もし犯人なら、4人と言うことか」
富士本がこれまでの捜査で思いつくのは2人。

公安部の戸澤公紀と、帝都銀行の菅原義光。
何れも影の噂は数知れない曲者《くせもの》である。

「皆さんは妖しい人物として、東京帝都銀行代表取締役の、菅原義光を考えている様ですが、違います。彼はあの高級マンションを、誘拐犯の彼女に8800万円で与えています。恐らく3人の保釈金を払ったのも彼だと考えて間違いないと思います」

(確かにそうだけど…)

「問題は、なぜそこまでして助けたのか?ね」
答えを期待して、咲が投げる。

「それについては、特捜部で菅原を調べてみました。彼には娘が1人いて、現在16歳。つまり10年前は6歳で、あの清和幼稚園に通っていました」

「では、あの時誘拐されたのは…」

「菅原の娘、菅原梨香です。当時、清和幼稚園の園長であった浅井哲夫が、証言してくれました」

浅井は責任を取る形で、逃げる様に故郷の静岡へ帰り、小さな擁護施設で働いていた。
特捜部は彼のもとに出向き、その重い口から真実を聞いたのであった。

「あの日、菅原梨香が1人遅れていて、待っている内に事故が発生したとのことです」

「なぜ先に発車しなかったんですか?」

「それが…どうやら菅原義光からかなりの裏金を受けていた様で、その列車の貸切も、菅原の力あってのことだった様です。電話はしたが、それどころじゃないと、切られたとのこと」

「ひどい話ね!横暴にも程があるわ!」

「確かに、娘が誘拐されてちゃ、それどころじゃねぇわな。菅原の権力は当時から曰く付きだから、駅長も園長も安易に判断できなかったんだろう。それに、通常は駅の状態を知らせる信号機で、そりゃあ混乱はするだろうが、衝突にはならねぇ。信号機の故障さえ無けりゃな」

聞けば聞くほどに、不信感と嫌悪感が募っていくメンバー達であった。
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