暴走環状線
〜警視庁特別対策本部〜
19:00。
刑事課に再びメンバー+1人が揃った。
「まず皆んなに、今日分かったことを含め、状況をまとめて報告する。紗夜頼む」
「はい。今回の被害者は、宮崎美穂、加藤吾郎、浜田智久、久米山勝。4人は10年前に現東京帝都銀行社長、菅原義光の1人娘である菅原梨香当時6才を誘拐し、逃亡中に逮捕され、主犯の久米山を覗く3人は保釈金で即釈放。久米山は10年の刑期満了前日に、何者かが高額の保釈金を払い、拉致。その後、恋人の殺害現場にて何者かによって射殺。居合わせた警官水口剛も射殺されました」
「鑑識部より追加報告します。射殺された久米山と水口の衣服に、本人とは違う毛髪が見つかり、DNA鑑定の結果、警視庁公安部の戸澤公紀と一致しました」
「ありがとうございます。よって戸澤公紀を2人の殺害容疑で、先程指名手配しました。尚戸澤は、事件以降、消息不明です」
公安部員の指名手配に少し騒つく。
気に留めずに続ける紗夜。
「次に、岐阜県にある太多線で起きた事故で、車内から遺体で見つかった運転士、山岸裕司は、検死の結果、死因は河豚《ふぐ》毒による毒殺。事故発生前に心肺機能停止で死亡し、事故に至ったものと判明しました」
「毒殺?」「河豚毒?」
様々な疑問が飛び交う。
「静かに聞きなさい❗️」
咲が一喝し、ピタリと静まる。
咲に軽く会釈する紗夜。
「殺された山岸は、10年前に山手線品川駅で発生した電車の衝突事故で、品川駅に停車中の車両に、内回り線の大崎駅から発車して衝突した車両の運転士。本人は衝突前にブレーキをかけて車外へ脱出。事故では、都内清和幼稚園の園児19人と、付き添いの望月明音の20人が死亡」
その凄惨な事故は、ここにいるほとんどの者の記憶に残っていた。
「山岸は当初、業務上過失致死の罪で逮捕されましたが、その後の調査で、事故の原因が信号機の故障と判明し、釈放。その後岐阜へと転任していました」
一旦間を置く紗夜。
「今までの話は、明らかな事実。ここからは、状況証拠による推定になります」
紗夜が富士本と豊川を見る。
黙って頷く2人。
「事件はまだ終わっていません」
この切り出しに、騒つく面々。
「静かにしろ❗️」
豊川が座ったまま一喝した。
「山岸殺害の容疑者は、都内にある割烹料亭『鈴蘭』の女将、兼板長である鈴蘭恭子、本名加藤恭子。」
上司に連れられ、ここにいる何人かは、行ったことがある店であった。
「岐阜の事故当日、名古屋で開催された和食の催しに、料理を披露。料理には河豚が使用され、殺害に十分な河豚毒を入手。故郷の岐阜県美濃加茂市に2号店を構えた加藤は、そのオープン記念のため、夜遅く山岸のいる美濃太田駅へ到着。そして、駅の売店にある食品に河豚毒を注入。それを食べた山岸は、多治見行き回送電車を運転中に、死亡。単線区間がほとんどのため、可児駅で停車し、多治見からの最終電車を過ごすはずが、停車出来ずに正面衝突となりました」
「はい。加藤はなぜ、山岸がそれを食べると分かったのでしょうか?」
当然の質問である。
昴が立つ。
「犯人グループは、『デス・トレイン』と言う裏サイトに、駅の監視カメラ映像を大量にアップしています。つまり、同社のネットワークで繋がった、全国の駅の映像をハッキングして見ることができるんです」
「ありがとう、昴さん。駅の売店の店主と山岸は、10年来の付き合いで、毎日最終の回送電車を運転する山岸に、売れ残りの食品をあげて、話をすることが、犯人には分かっていたのです」
「はい。鈴蘭…いや、加藤恭子が山岸を殺害する動機が見当たりません」
「そうでしょうか?山岸が殺害されるほど恨まれる動機はただ一つ。10年前の事故です。加藤は店の常連である時任亮介と不倫関係にあり、2人の間には、当時5歳の娘がいました。そしてその子、加藤百合子は、死亡した清和幼稚園児19人のリストにありました」
騒めき始める前に、追い討ちをする紗夜。
「同じく、公安部の戸澤の娘も、あの事故で死亡。そして、品川事故の現場に出向き、事を収めた現国交省の執務官が加藤の不倫相手、すなわち百合子の父親、時任亮介です。また、彼と話を合わせて事を納めたのが、現公安部長である相沢湊人。更に、調べてみると、時任、相沢、そして菅原は、中学・高校の同級生で、度々帝都銀行本社へ、出入りしていることも判明しました」
捜査員達の驚きが、大きな響《どよ》めきとなり、まるで最後のスイッチであったかの様に、刑事課の電話が鳴った。
19:00。
刑事課に再びメンバー+1人が揃った。
「まず皆んなに、今日分かったことを含め、状況をまとめて報告する。紗夜頼む」
「はい。今回の被害者は、宮崎美穂、加藤吾郎、浜田智久、久米山勝。4人は10年前に現東京帝都銀行社長、菅原義光の1人娘である菅原梨香当時6才を誘拐し、逃亡中に逮捕され、主犯の久米山を覗く3人は保釈金で即釈放。久米山は10年の刑期満了前日に、何者かが高額の保釈金を払い、拉致。その後、恋人の殺害現場にて何者かによって射殺。居合わせた警官水口剛も射殺されました」
「鑑識部より追加報告します。射殺された久米山と水口の衣服に、本人とは違う毛髪が見つかり、DNA鑑定の結果、警視庁公安部の戸澤公紀と一致しました」
「ありがとうございます。よって戸澤公紀を2人の殺害容疑で、先程指名手配しました。尚戸澤は、事件以降、消息不明です」
公安部員の指名手配に少し騒つく。
気に留めずに続ける紗夜。
「次に、岐阜県にある太多線で起きた事故で、車内から遺体で見つかった運転士、山岸裕司は、検死の結果、死因は河豚《ふぐ》毒による毒殺。事故発生前に心肺機能停止で死亡し、事故に至ったものと判明しました」
「毒殺?」「河豚毒?」
様々な疑問が飛び交う。
「静かに聞きなさい❗️」
咲が一喝し、ピタリと静まる。
咲に軽く会釈する紗夜。
「殺された山岸は、10年前に山手線品川駅で発生した電車の衝突事故で、品川駅に停車中の車両に、内回り線の大崎駅から発車して衝突した車両の運転士。本人は衝突前にブレーキをかけて車外へ脱出。事故では、都内清和幼稚園の園児19人と、付き添いの望月明音の20人が死亡」
その凄惨な事故は、ここにいるほとんどの者の記憶に残っていた。
「山岸は当初、業務上過失致死の罪で逮捕されましたが、その後の調査で、事故の原因が信号機の故障と判明し、釈放。その後岐阜へと転任していました」
一旦間を置く紗夜。
「今までの話は、明らかな事実。ここからは、状況証拠による推定になります」
紗夜が富士本と豊川を見る。
黙って頷く2人。
「事件はまだ終わっていません」
この切り出しに、騒つく面々。
「静かにしろ❗️」
豊川が座ったまま一喝した。
「山岸殺害の容疑者は、都内にある割烹料亭『鈴蘭』の女将、兼板長である鈴蘭恭子、本名加藤恭子。」
上司に連れられ、ここにいる何人かは、行ったことがある店であった。
「岐阜の事故当日、名古屋で開催された和食の催しに、料理を披露。料理には河豚が使用され、殺害に十分な河豚毒を入手。故郷の岐阜県美濃加茂市に2号店を構えた加藤は、そのオープン記念のため、夜遅く山岸のいる美濃太田駅へ到着。そして、駅の売店にある食品に河豚毒を注入。それを食べた山岸は、多治見行き回送電車を運転中に、死亡。単線区間がほとんどのため、可児駅で停車し、多治見からの最終電車を過ごすはずが、停車出来ずに正面衝突となりました」
「はい。加藤はなぜ、山岸がそれを食べると分かったのでしょうか?」
当然の質問である。
昴が立つ。
「犯人グループは、『デス・トレイン』と言う裏サイトに、駅の監視カメラ映像を大量にアップしています。つまり、同社のネットワークで繋がった、全国の駅の映像をハッキングして見ることができるんです」
「ありがとう、昴さん。駅の売店の店主と山岸は、10年来の付き合いで、毎日最終の回送電車を運転する山岸に、売れ残りの食品をあげて、話をすることが、犯人には分かっていたのです」
「はい。鈴蘭…いや、加藤恭子が山岸を殺害する動機が見当たりません」
「そうでしょうか?山岸が殺害されるほど恨まれる動機はただ一つ。10年前の事故です。加藤は店の常連である時任亮介と不倫関係にあり、2人の間には、当時5歳の娘がいました。そしてその子、加藤百合子は、死亡した清和幼稚園児19人のリストにありました」
騒めき始める前に、追い討ちをする紗夜。
「同じく、公安部の戸澤の娘も、あの事故で死亡。そして、品川事故の現場に出向き、事を収めた現国交省の執務官が加藤の不倫相手、すなわち百合子の父親、時任亮介です。また、彼と話を合わせて事を納めたのが、現公安部長である相沢湊人。更に、調べてみると、時任、相沢、そして菅原は、中学・高校の同級生で、度々帝都銀行本社へ、出入りしていることも判明しました」
捜査員達の驚きが、大きな響《どよ》めきとなり、まるで最後のスイッチであったかの様に、刑事課の電話が鳴った。