暴走環状線
ここで富士本が鑑識班へ合図を送る。
「鑑識班の武藤です。2人共死因は爆発時の外傷による出血死。遺体が本人であるかは、今確認中です」
「科学捜査班の酉塚です。爆発の規模と残留物質から、液体爆弾…の可能性が高いと考えます。昨今のテロで良く使用されるもので、分量による爆発規模の調整が可能です」
「簡単に入手できるものでしょうか?」
昴は、西塚に微妙な蟠《わだかま》りを感じた。
「知識さえあれば、家庭にある洗剤や、ホームセンター等で扱う肥料等から製造は可能です。信管も携帯のフラッシュで代用できるものもあります…が、一般の方が入手できる情報ではないと思います」
「入手できる、或いは製造できるとしたら?」
「その分野の科学者や…軍事関連者、或いは爆発物処理を専門とする者…かと」
「はい。爆発物処理班の木下です。確かに、製造するには、かなりの知識が必要です。過去に国内で犯罪に使用されている物は、ダイナマイトやプラスチック爆薬の様に、完成品を入手できるものですが、爆発の規模を小さく調整することは不可能でしょう。液体爆弾は完成品を入手することはできませんが、製造と調整は可能です」
「なるほど、容疑者或いは協力者を抽出できるかも知れないな。木下さん頼む」
富士本の依頼に黙って頷く。
「科学捜査班の水樹です。起爆装置は、やはり遠隔操作式で、携帯から捜査可能と考えられます。また、残骸からの推測になりますが、一度入ると、解除用の回路はなく、起爆はスピードメーターによるものと考えられます」
「スピードメーターだって?」
「はい、宮本刑事。スマホアプリでもありますし、自転車用の小型メーターもあり、今回は、スピードゼロで爆発する設定の様です」
「便利な世の中が、犯罪まで楽にするとはな」
「あと、携帯電話ですが、本人の物ではなく、使い捨ての物で、メモリーは自動破壊されてました」
一通りの報告が終わり、あちこちが推論や議論でざわつき始めた。
「よし、分かった。現時点ではここまでとし、殺害された2人の調査と、車を逆に追い、爆弾がいつどこで仕掛けられたか、この調査を最優先に頼む!」
不毛な会議に意味はなく、的確な指示である。
「一つだけいいですか?」
「なんだね紗夜」
「この数日で事件は始まり、2人の標的が既に殺されました。つまりは、計画を実行する時が来たと言うことです。これから数日の出来事に注意して、犯人の最終目的を先に掴むことが、必要です」
「最終…目的…か。分かった、紗夜と昴はその分析に集中してくれ。必要なら科捜班が適任だろう。頼んだぞ」
「さて、私達は今分かる事実と、怨恨の筋で関連性を掴むわよ。未解決事件捜査部の皆さん、協力をお願いね!」
咲に指名された未解決事件捜査部の10名。
コツコツと出て行く、ミニスカ&ハイヒールの後ろ姿を目で追っていた。