ハロー、愛しのインスタントヒーロー
*
ばたん、と荒々しくドアの開く音がした。
ゆっくり瞼を上げれば、見慣れた殺風景な部屋が映る。
玄関の方から足音が聞こえて、数日ぶりの母の帰宅を知らせた。
「なに、まだいたの? 学校は?」
第一声から、彼女の機嫌がよろしくないのだということを察する。
まだ眠い目を擦り、今の時刻を確認した。もうすぐ七時になるところだ。
仕方なく起き上がって、とりあえず制服に着替える。
「奈々。あんた、こないだ男入れたでしょ」
「何で」
「嗅いだことない匂いするもん」
げえ、と大袈裟に顔を歪めた母が肩をすくめた。
そんな顔をしたいのは私の方だ。彼女がここに入ってきた途端、きつい香水や煙草の匂いで空気が汚れていく。気分が悪い。
洗面所で顔を洗って歯を磨いて、髪を整える。朝食は食べる時間がないし、食べる気も起きなかった。
お気に入りの香水を軽く首元につける。けれどもそれだけじゃ母の連れ帰ってきた匂いが抜けきらず、結局いつも多めにつける羽目になるのだ。同じ「くさい」でも、こっちの方が断然マシだった。
「あ、そうだ。先月末だっけ? そこに越してきた人さー、あんたがちっちゃい時に遊んでた子だよ。覚えてる?」
ばたん、と荒々しくドアの開く音がした。
ゆっくり瞼を上げれば、見慣れた殺風景な部屋が映る。
玄関の方から足音が聞こえて、数日ぶりの母の帰宅を知らせた。
「なに、まだいたの? 学校は?」
第一声から、彼女の機嫌がよろしくないのだということを察する。
まだ眠い目を擦り、今の時刻を確認した。もうすぐ七時になるところだ。
仕方なく起き上がって、とりあえず制服に着替える。
「奈々。あんた、こないだ男入れたでしょ」
「何で」
「嗅いだことない匂いするもん」
げえ、と大袈裟に顔を歪めた母が肩をすくめた。
そんな顔をしたいのは私の方だ。彼女がここに入ってきた途端、きつい香水や煙草の匂いで空気が汚れていく。気分が悪い。
洗面所で顔を洗って歯を磨いて、髪を整える。朝食は食べる時間がないし、食べる気も起きなかった。
お気に入りの香水を軽く首元につける。けれどもそれだけじゃ母の連れ帰ってきた匂いが抜けきらず、結局いつも多めにつける羽目になるのだ。同じ「くさい」でも、こっちの方が断然マシだった。
「あ、そうだ。先月末だっけ? そこに越してきた人さー、あんたがちっちゃい時に遊んでた子だよ。覚えてる?」