ハロー、愛しのインスタントヒーロー
私が問うと、絢斗は首を傾げた。彼の毛先がふわふわ揺れる。
「えっと……」
「私とハグしたいとか、キスしたいとか思う?」
視線をさまよわせ、戸惑ったように絢斗が頬を赤らめた。
「そ、そういうこと、あんまり大きい声で言っちゃだめだよ」
「絢斗。私、真剣に聞いてる。ちゃんと答えて」
黒く濡れた瞳がこちらを向く。いつもだらしなく緩んでいる薄い唇が、きゅっと引き締まった。
「……ごめん。よく、分かんない。どういう好きって、好きか嫌いかの好きじゃないの?」
「じゃあ絢斗は、エビも私も好きなんだ。一つしか大事にできないって言ったくせに。嘘つき」
「そ、そういうわけじゃないよ!」
「どういうわけなの?」
絢斗の「好き」が分からない。特別とか、一番とか、彼の中でどの程度それが絶対的なのか。
「沙織ちゃんのことは? 好きじゃないの? 大切じゃないの? 沙織ちゃんと離れたら、エビフライも食べられなくなるよ。嫌でしょ?」
「何で急に沙織ちゃんのこと言うの?」
「だって、」
絢斗がいくら私を大切にしても、それは羽毛のように軽くてすぐに飛んでいってしまう。痕がつくまで握り締めておくような、縛りつけておくような、そんな守り方を、絢斗はきっと知らないしできない。
「奈々ちゃんか沙織ちゃん、どっちかを選ぶっていうこと?」