ハロー、愛しのインスタントヒーロー
昔は私の方が速く走れたのに、もうすっかり歩幅が変わってしまった。前はそういう変化が悲しかったけれど、今は素直に受け入れられる。
私も変わった。日比野くんも変わっていた。変わらないものなんてない。知らなかった空白さえ抱き締めて、私たちは大人になる。
「はー……もういいかなあ」
家の近くまでほぼノンストップで走り続け、ようやく立ち止まった。息を切らしている私に、絢斗が「大丈夫?」と顔を覗き込んでくる。
「だい、じょうぶだけど……ちょっと、速すぎ」
「ご、ごめんね! 途中から楽しくなっちゃって……」
「絢斗。しっ」
「え?」
少し遠いけれど、前方にぼんやりと見える人影。――沙織ちゃんだ。
きっと、いや確実に、絢斗を探している。私から引き離そうと躍起になっている。
「……こっち」
学ランの袖を摘まみ、絢斗を誘導する。
足音を立てないように気を付けながら、アパートの階段をのぼった。
「き、緊張したね……」
ドアを閉めて鍵をかけた私に、絢斗が安堵した様子で息を吐く。
二人でいるところが見つかったらまずいと思い、咄嗟に家へ連れてきたはいいけれど、先のことは全く考えていなかった。
絢斗の帰宅が遅くなればなるほど沙織ちゃんは純粋に心配もするだろう。
「奈々ちゃん、今日お母さん帰ってくるの?」