ハロー、愛しのインスタントヒーロー
もう少し休んだら帰りなよ、と言い渡そうとしたところで、絢斗が尋ねてくる。
「え? いや、多分帰らないと思うけど……」
「じゃあ僕、泊まってく!」
「はあ?」
「あ、勝手に決めちゃだめだよね。泊まってもいい? ですか?」
何だ、その後付けくさい「ですか」は。ぶりっ子すればいいってもんじゃない。
泊まること自体は別に構わないというか、散々色んな人を泊めているのだから今更だ。でも今は一刻でも早く帰った方がいいに決まっているし、そもそも絢斗がうちに泊まったことなんて今まで一度もない。
相手は絢斗だ。どうこうなるわけはないけれど、女の子の家に泊まるということの意味を分かっているのだろうか。
「何言ってんの。帰んないとだめでしょ」
「やだよ。だって、僕が帰ったら奈々ちゃん一人になっちゃう」
「意味分かんないし……」
「泣いてたもん。今もまだ悲しい顔してるもん。だから一緒にいたいんだ」
ゆっくり腕を伸ばした絢斗の指先が、私の頬をなぞる。もうすっかり夜風で乾いてしまった涙の跡を辿るように。
「ね。二人でいれば、なんにも怖くないよ」