ハロー、愛しのインスタントヒーロー
途端、割れんばかりの声が鼓膜を突いてくる。おののいて僅かに耳からスマホを離し、静かに覚悟を決めた。
「絢斗は私の家ですよ」
「え……」
「今日は泊まっていくそうです。言っておきますけど、一応私は止めましたからね」
相手は黙り込んでいる。意外だ。即座に否定されるものだと思っていた。
「……今そこに、絢斗はいるの?」
「いいえ。お風呂に入ってます」
「そう。……ねえ、奈々ちゃん。ちゃんと考えてくれたかしら」
何をですか、と返そうとしてやめた。自分から掛けたのだ。誤魔化す必要も理由もない。
「私は絢斗と離れるつもりはありません。絢斗自身も、それを望んでいます」
全てを投げ捨ててでも私を選ぶと言ってくれた。だからそれを信じる。絢斗は嘘なんてつけないから、本気で思ってくれているのは分かっていた。
意図せずこの先、彼が沙織ちゃんを選択することになったとしても。それでも、今の絢斗は十割中十割、私のものだ。
「私たちを認めて下さらないのなら、私はたとえあなたでも戦います。あなたの言動は、母親の域を逸脱している」
そっちがそのつもりなら、こっちだって。
「沙織さん。これは宣戦布告です。私は絶対に降伏しません」