ハロー、愛しのインスタントヒーロー
1分だけ見つめ合って
1:00
沙織ちゃんは僕のお母さんではない。
「おかーさん、あれほしい!」
「だめ。おもちゃはこないだお父さんに買ってもらったばっかりでしょ?」
「ほしいのー!」
僕が三歳の時にお母さんはお空に行ったんだ、とお父さんが言っていた。ふうんって、それしか思わなかった。だって、お母さんのことはあんまり覚えていないから。
代わりに僕のお母さんをしてくれたのが沙織ちゃんだった。
「絢斗!? 何でここに落書きしたの!?」
沙織ちゃんはお父さんのことが大好きで、お父さんが帰ってくるとすごく嬉しそうな顔をする。僕といる時は怒ってばっかり。ため息ばっかり。
きっと僕がいなくなっても、ふうん、としか思わないんだろうな。僕も、お母さんがいないって知った時、ふうん、だったけど。
「また野菜残して! ちゃんと食べなきゃだめでしょ!?」
「きらい! たべたくない!」
「絢斗!」
お父さんも、学校の先生もみんな優しい。がみがみ怖いのは沙織ちゃんだけだ。
でも小学二年生の時に、奈々ちゃんに出会った。
「にんじん、きらいなの?」
教室の班が同じになっただけ。給食の時間に机を向かい合わせにする時、たまたま目の前になっただけ。
真っ直ぐな黒い髪が綺麗で、大きい目に吸い込まれそうになった。