ハロー、愛しのインスタントヒーロー


「うん。やさい、おいしくないから」

「そうかな?」

「そうだよ」


奈々ちゃんは不思議そうに首を傾げて、カレーに入っていたにんじんを食べた。そしてやっぱりもう一度、こてんと首を傾げる。


「おいしいけどなあ……」


あまりにも普通に言うから、何だか美味しいのかもしれないと思った。
自分の器のにんじんを一つスプーンですくって、口に入れてみる。


「……カレーのあじがする……」


にんじんの味がしない。おかしいな、沙織ちゃんのカレーを食べた時はにんじんの味がしたのに。


「ふふっ」


何でだろう、とカレーをじっくり見ていたら、目の前から小さい笑い声が聞こえた。ちょっとびっくりして顔を上げる。

奈々ちゃんが肩を揺らして笑っていた。


「ね、にんじん、おいしいよね」


それが奈々ちゃんと初めて話した時のこと。
家に帰ってにんじんを食べてみたら、沙織ちゃんがものすごく驚いていた。

次の日、学校に行く途中で奈々ちゃんと会った。家が近いんだって。
それから学校の行き帰りは奈々ちゃんと一緒に歩くようになった。奈々ちゃんには「なんでついてくるの?」って言われたけど、僕が遅れた時は待っててくれる。優しいんだなって思った。

< 151 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop