ハロー、愛しのインスタントヒーロー
「うん。やさい、おいしくないから」
「そうかな?」
「そうだよ」
奈々ちゃんは不思議そうに首を傾げて、カレーに入っていたにんじんを食べた。そしてやっぱりもう一度、こてんと首を傾げる。
「おいしいけどなあ……」
あまりにも普通に言うから、何だか美味しいのかもしれないと思った。
自分の器のにんじんを一つスプーンですくって、口に入れてみる。
「……カレーのあじがする……」
にんじんの味がしない。おかしいな、沙織ちゃんのカレーを食べた時はにんじんの味がしたのに。
「ふふっ」
何でだろう、とカレーをじっくり見ていたら、目の前から小さい笑い声が聞こえた。ちょっとびっくりして顔を上げる。
奈々ちゃんが肩を揺らして笑っていた。
「ね、にんじん、おいしいよね」
それが奈々ちゃんと初めて話した時のこと。
家に帰ってにんじんを食べてみたら、沙織ちゃんがものすごく驚いていた。
次の日、学校に行く途中で奈々ちゃんと会った。家が近いんだって。
それから学校の行き帰りは奈々ちゃんと一緒に歩くようになった。奈々ちゃんには「なんでついてくるの?」って言われたけど、僕が遅れた時は待っててくれる。優しいんだなって思った。