ハロー、愛しのインスタントヒーロー
奈々ちゃんは不思議な女の子だった。
僕が沙織ちゃんから怒られたようなことをしても、奈々ちゃんは怒ったり叱ったりしない。毎回必ず「なんで?」と聞いてくる。野菜を残した時も、学校の机に落書きをした時も。
だから僕は毎回困ってしまう。
野菜が好きじゃないから残す。退屈だから落書きをする。声に出してみると理由は全然大したものじゃなくて、じゃあ僕はどうしてそんなことをしていたんだろう、と考える。
僕は、沙織ちゃんに知って欲しかった。僕が何を好きで何を嫌いなのか。今どんな気持ちでどんなことを考えているのか。
ただ、もう少しだけでいいから僕の方を向いて欲しかった。
だって、沙織ちゃんは僕のことなんてきっと好きじゃない。お父さんと話している時の沙織ちゃんが本当に楽しそうで嬉しそうで、それがずっと悲しかった。
奈々ちゃんに「なんで?」と聞かれ続けて、僕は自分がとても悲しいことに気が付いた。気が付いて、気が付いた時には涙が止まらなかった。
「あやちゃん、だいじょうぶ?」
奈々ちゃんは僕のことを「あやちゃん」と呼ぶ。
最初は僕のことを女の子だと思っていたらしい。呼び方はそのままでいいよ、と僕が言った。
あやちゃん、と呼ぶ時の奈々ちゃんの柔らかい声が好きだった。