ハロー、愛しのインスタントヒーロー
学校で泣いてしまったからか、からかわれることが増えた。
奈々ちゃんと一緒にいると男の子よりも女の子と遊ぶことが多かったから、それも原因だったのだと思う。
「おとこおんなー! きもーい!」
「また泣くのかー? だっせー!」
帰り道にクラスの男の子に取り囲まれて、一斉にそんな声を浴びせられた。
言い返せなくて唇を噛んでいると、隣にいた奈々ちゃんが口を開く。
「きもくないしださくない。そーやっていじめてるほうが、かっこわるいじゃん」
――ヒーローみたいだ。
咄嗟に浮かんだのは、かっこいい、という感想だった。奈々ちゃんはとびきり可愛く笑うのに、怒った時はこんなに真面目な顔をするんだ。
「あやちゃんは、ずっと私のそばにいたらいいよ。そうしたら、なんにも怖くないもん」
嬉しくて嬉しくて仕方なかった。今までは僕が勝手に奈々ちゃんについて回っていただけだったけれど、奈々ちゃんの方からそう言ってくれたから。
「うん、そうする。ずっと一緒にいるよ。ななちゃん」
ちょっとだけ泣いてしまった。嬉しくて涙が出たのは初めてだった。
奈々ちゃんといると僕は泣き虫になってしまう。でも、不思議と心は軽い。
奈々ちゃんに「なんで?」と聞かれてもいいように、理由を説明できないことはしないことにした。沙織ちゃんに褒められるようになった。
僕を助けてくれた奈々ちゃんを、いつか僕が助けられるようになりたい。
泣き虫なヒーローは、嫌われちゃうかな。