ハロー、愛しのインスタントヒーロー



「それでねっ、ななちゃんが……」

「はい、お話はご飯食べてからね。いただきますして」

「いただきます!」

「ほんと、いっつも“ななちゃん”の話ばっかりなんだから」


家で話すのは、大体が奈々ちゃんのことだった。

沙織ちゃんと奈々ちゃんが初めて会ったのは近所の公園で、最近は奈々ちゃんが家に帰りたくないと言うから、放課後によく遊んでいる。


「絢斗がご飯残さず食べられるようになったのも、ななちゃんのおかげだっけね。ちゃんと『ありがとう』って言うのよ」

「うん!」


沙織ちゃんは奈々ちゃんのことが好きみたいだった。それは僕も嬉しい。


「ねえ、絢斗」

「なにー?」

「……私のこと、無理して『お母さん』って呼ばなくてもいいんだからね」


どうして急にそんなことを言われたのか分からなかったけれど、僕が「お母さん」と言う度に奈々ちゃんが寂しそうな、羨ましそうな顔をするから、もしかしたらそれがきっかけかもしれない。


「じゃあ、さおりちゃん?」

「ふふ、そんなに可愛い呼び方してくれるの?」


笑った沙織ちゃんが、開いたお皿を片手に立ち上がる。


「ななちゃんのお家も大変ね……心配だわ」

「え?」


聞き返した僕に、「何でもない」と眉尻を下げて、今度ななちゃんをうちに連れておいで、と沙織ちゃんは話を終わらせてしまった。

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