ハロー、愛しのインスタントヒーロー
それなら良かった、と啓介が苦笑する。
テスト期間の放課後、ファミレスで教科書とノートを広げながら、勉強という本来の目的そっちのけで話が続く。
「両方に好かれようとするから苦しいんだよ。てか、絢斗のくせに二股とか調子乗りやがって」
「ううん、そういうんじゃないんだけど」
「冗談だっつの。真顔で返事すんな」
両方に好かれようとするから、苦しい。
すとんと身に入ってきた言葉だった。腑に落ちてしまって、でもそれを認めると今度は選択に迫られるから、僕は必死に逃げ道を探したかった。
「どっちにも好かれるのは、だめかな?」
「だめっていうか……それができたら悩んでないんじゃね? まあ普通はどっちか一つだけだろ、多分」
「啓介も一つだけ?」
「うーん、そうだな。大切な子は一人だけで十分っしょ」
言い終わってから、啓介が照れ臭そうに仰け反る。
「あ~~~、まあ俺は馬鹿だから! 駆け引きとか絶対無理なんだわ! だから両方にいい顔するとか器用なことできねえな」
「啓介は馬鹿じゃないよ」
「うん……お前はいい奴だって知ってる、ありがとうな……」
成績はいつも上位の啓介が馬鹿なんだったら、僕は大馬鹿だ。
そうか。僕は選ぶ他ない。そして、大切にできるものはたった一つだけなんだ。