ハロー、愛しのインスタントヒーロー



「奈々ちゃんに会いに行ってくるから」


高校二年生の夏だった。一方的に告げた僕に、沙織ちゃんは当然反論してきた。


「……何言ってるの? ずっと言ってるじゃない、だめだって……」

「だめなの?」

「だめに決まってるでしょ!」

「分かった」


頷いてみせると、沙織ちゃんがほっとしたように息をつく。少しだけ心苦しくなりながら、それでも僕はようやく「切り捨てる」ことを覚えた。


「じゃあ、家出する」


僕はもう泣いているだけだった小学生じゃない。自分の足で奈々ちゃんの町まで行くことはきっと簡単だった。
でも、それじゃだめなんだ。沙織ちゃんを傷つけると分かっているけれど、それ以上に僕の中で大切なものがあると伝えなければならないと思った。

沙織ちゃんという檻の中で、いい子で体育座りしていた自分を、壊さなきゃ前に進めない。


「え……?」

「修学旅行の時に使ったカバンってどこにしまったっけ……えっと、電車の時間……」


家出という単語が一番不良っぽくていいかなと思って使ってみたけれど、本当は何にも考えていなかった。
けれど、僕がそんなことを言い出したのが相当ショックだったらしく、沙織ちゃんは呆然としていた。

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