ハロー、愛しのインスタントヒーロー
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「帰っちゃった。からかいすぎたかな」
絢斗が去っていったドアを見つめていると、母が呑気に呟く。
そんな軽い調子であんなことを言ったのか、と恨みたくなった。だって分からない。怖かったのだ。あんなに淡々と話す絢斗を見たのは初めてだったから。
得体のしれない焦燥感がじわじわと体を蝕む。絢斗を引き留めなければいけなかったような気がして、でもそうしたところであっさりと出て行くような気もして。
たった一つ、何かが明確に変わってしまった空気の揺れだけは感じていた。
「……聞きたいことがあるんだけど」
視線をゆっくりと母に戻す。ただ見つめていただけか、それとも睨んでしまっていたかは自分では分からない。
「お父さんと離婚した理由って、何?」
今更だと思う。これまで「どうでもいい」と退けてきたくせに、焦って手繰り寄せようとしている。
『成長していく度にあいつに似ていく。やっぱり、顔もそっくりになるもんだ』
父の言っていたことが本当なら、私が母の性質を強く受け継いでいるのなら、事実を知らなければいけない。母の過去を知って、きちんと軽蔑して、情を捨てなければならない。
『何かを選ばなきゃいけないなら、どっちかを捨てなきゃいけないなら、僕は奈々ちゃん以外、何もいらないって』
『あいつからは離れなさい。そうしないと、お前が幸せになれない』