ハロー、愛しのインスタントヒーロー
電話が切れる。不通音が私の中の憂いを煽る。
僅かな空白が耐え切れず、玄関から外に飛び出した。階段を駆け下りて道路の反対側を見やると、絢斗が律儀に赤信号を待っている。
「奈々ちゃん!?」
道路を挟んで彼の真ん前まで歩いていけば、さすがの絢斗も私に気が付いた。信号が変わった瞬間、慌てた様子でこちらに向かって走ってくる。
「待っててって言ったのに! こんな時間に一人でいたら危ないよ!」
「家の前だから大丈夫」
「そんなの分かんないじゃん!」
真剣に注意してきたかと思えば、絢斗はすぐに黙り込んだ。私の顔をじっと見つめて一歩詰めてくる。
「……どうし、」
たの、と、弱々しい声で付け足す羽目になった。絢斗の両腕が、私の肩を抱いたから。
「絢斗」
抱き締める、よりも、抱きつく、が適切かもしれない。そういった力加減で、温度で、彼はいま私を手繰り寄せていた。
「絢斗、どうしたの」
気持ちが高ぶったわけでも、嬉しかったわけでもないのは分かる。
触れてきた人の感情を察することなんて、今までいくらでも、本当にいくらでもあったのだ。それを知ったところで虚しくなるだけだけれど。
「……三分、だけだから」