ハロー、愛しのインスタントヒーロー
絢斗を失いたくないから、終わりが来て欲しくないから、怖いから。
好きになりたくなかった理由なんてたくさんある。でも絢斗が私のことを好きだと言った時点で、もう私たちは幼馴染ではいられなかった。
私も泣きたくなってきた。
消えたのは「ずっと一緒」と無邪気に誓った私たちで、残ったのは夜に抱き合っている男女だ。私は嫌というほど知っている。男女の間に生まれる愛とか恋とか欲の脆さを。
ばいばい、あやちゃん。そして、ハロー、愛しのインスタントヒーロー。
「奈々ちゃん、……ぼ、く、」
「いいよ。無理に喋らなくて」
いつの間にか広くなっていた絢斗の背中を、努めて優しくさする。
愛しいと思えるうちに、彼を大切にしたい。愛しさが憎しみに変わる瞬間は、なるべく遠い未来であって欲しいと願う。
どれだけ温かい気持ちで接していても、いつか壊れてしまうのが恋だ。
「ごめんね……」
絢斗が唸りながら必死にそう言うから、悲しいのに笑ってしまう。
そこは普通「ありがとう。僕もだよ」くらい返せないとだめじゃない? なんて、胸中で文句を垂れてみる。
思えば私は、この時どうして絢斗が泣いていたのかを知らなかった。ごめんね、の真意も、何もかも分かっていなかったのだ。
次の日から、絢斗は私と顔を合わせてくれなくなった。