ハロー、愛しのインスタントヒーロー


単調に自己紹介を終えたところで、店長が「じゃあそういうことで」と腰を浮かせる。そのまま慌ただしそうにキッチンへ消えていった。

店長を急かした張本人はと言えば、なぜかこちらに歩み寄ってくる。


「は~~~疲れた~~~」


盛大なため息と共に、彼が腰を下ろした。


「……あの、戻らないんですか」

「え? ああ、今から休憩なんで! 店長がピンチヒッターっす」


なるほどそういうことか、と納得したと同時、相手が尋ねてくる。


「此花さん、何年生なんですか」

「高三です」

「まじ? 俺も。同い年かー、良かった」


一体何がどのように良かったのかは不明だ。
変に会話を繋げてしまったせいで完全に帰るタイミングを失ってしまい、気まずさを覚える。


「此花さんって、土日とか結構入れる感じ?」

「あ……バイトもう一つやってるから両方は難しいけど、どっちかなら」

「へえー、すご。掛け持ちってめちゃくちゃ忙しくね?」

「まあ、うん。ちょっと……今は、忙しい方が何も考えなくて済むっていうか」


今の回答は間違えた、と自分の中でも瞬時に分かった。
案の定、井田くんは黙りこくってしまう。しかしその数秒後、


「チョコ食う?」

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