ハロー、愛しのインスタントヒーロー


呑気なトーンで彼が差し出してきたのは、言葉と違わず個包装のチョコレートだ。
流れが全く掴めずに面食らった。受け取るのを戸惑っていると、「嫌い?」と重ねて問われる。


「あ、いや……ありがとう」

「ん」


既に口の中にチョコレートを含んでいるらしい。井田くんは私の返答に頷き、それ以上は何も詮索してこなかった。
気遣われたのか彼がマイペースなだけなのかは判断がつかないけれど、悪い人ではないのは間違いないだろう。


『好きだよ』


ふとした時に何度でも思い出す。
あの夜からもう十日経った。絢斗とは一度も会っていない。電話を掛けても折り返しの連絡はなく、ただ虚しさが募るだけだった。

好きって言ったのはそっちのくせに。どうして私が好きって言っちゃいけないんだ。
私のためなら何でも捨てられるんじゃなかったのか。一人にしないって、一緒にいるって、言ったじゃん。


『ずっと、僕がそばにいるよ。泣きたくなった時、絶対に離れない。僕が一緒にいるから』


絢斗も私のこと言えないくらい嘘つきだね。私、今ものすごく泣きたいよ。でも隣にいないじゃん。


「大丈夫?」

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