ハロー、愛しのインスタントヒーロー
何が楽しくてそんなことを話さなければならないんだ、と面倒に思いつつ、答えを模索する。
井田くんの口調はあっさりとしていて、先程の前置き通り、私が拒めばすぐに退くのが目に見えていた。答えても答えなくてもいい。そのプレッシャーのなさが私の口を動かす。
「キスしたいって思った時」
私がそう述べると、彼は目を見開いた。
「直球だね」
「だってそうでしょ。かっこいいとか可愛いとかぼやかした言い方してるけど、結局好きかどうかなんて、キスできるかどうかだよ」
だから愚かなのだ。いくら優しくてもいくら美しくても、欲の前ではただの装飾品と化す。
イケメンとかお金持ちとか、そういう称号は万人が分かる基準値に過ぎない。そんな物差しでは本当の「好き」は測れない。
強烈に惹かれて、相手のことが欲しくて堪らなくなって、全てを知りたくなる。触れて確かめたくなる。
キスもセックスも、本来は恋の延長線上にあるべきなのだ。行為だけを得て満足してしまうのは、愛されているような気がするから。簡単に心を満たせるから。
『奈々ちゃん、かわいい』
あの時、至近距離で瞳がぶつかって、そのままキスされるんじゃないかと思った。されてもきっと受け入れた。
もう、私たちは戻れない。
「ごめん。俺は、よく分かんないんだよな。今まで彼女いたことないし、モテないし。でも、」