ハロー、愛しのインスタントヒーロー
井田くんが真面目な顔で続ける。
「いま目が合ったなーとか、手繋ぎたいなーとか、そういうのも多分、好きじゃん。よく分かんないけどドキドキした、とか、なんかふわふわしたぼやけてる気持ちも、『好き』に入ると思うんだ」
綺麗事を言っていると思う。本気で人を好きになったことがないから言えるのだと思う。
それほど純粋な温度で恋に憧れられる彼を、羨ましいと思ってしまう。
「そういうのって、此花さんにとってはノーカン?」
何よりも、誰よりも強く愛してくれなきゃ意味がない。どうせ崩れ去る城なら、一時でも構わないから窒息するほど溺れさせて欲しい。
ふわふわと頼りない、いつか消えてなくなると分かりきっているぬるま湯なんて、そんなの。
「……そうだね」
肯定を返して俯く。
井田くんが立ち上がった気配がした。
「まあ、人それぞれだよな、大事にしてるものって」
俺、着替えてくるわ。
そう切り上げた彼に、どこか安堵した刹那。
「でも、知ってて欲しいんだ。自分の中の大事なものまで変えなくていいけどさ、違うものを大事にしてるやつもいるんだって、ただ、知ってて欲しい」
弾かれたように顔を上げる。井田くんの表情は見えなくて、微かなざわめきが胸の奥で溶けた。