ハロー、愛しのインスタントヒーロー


帰り際、パートのおばさんに労いの言葉をもらい、ようやく疲れているのだと自覚する。自覚した途端、急に体がだるく感じた。
そういえば昨日からずっと頭が痛い。そのせいか分からないけれど、食欲も落ちている。

駅から家までの道中、照りつける夕日に眩暈がして何度か立ち止まった。どうにか家の目の前まで辿り着いた時には完全にくたくたで、思わずしゃがみ込んでしまう。


「……奈々ちゃん?」


前方から飛んできた声は澄んでいた。
正直顔を上げる余裕はなく、返事をしようにも掠れた声しか出ない。


「どうしたの? 大丈夫?」


相手が持っていた荷物を道に置く。ペットボトルのお茶、長ネギ、卵。断片的に情報が脳に入ってくる。
視界の端でウェーブのかかった髪の毛が揺れるのを見た。


「立てる? 肩貸すから、とにかく中に入りなさい」


体を動かすのに精一杯で、全く頭が回らない。

口を開くことができたのは、家のベッドに横たわりながら、キッチンに立つ彼女の後ろ姿を眺めている時だった。


「……なんで、」


喉の奥で言葉がつっかえる。私の方を振り返って、彼女が首を傾げる。


「ん? 何か言った?」


その動作に悪意は一ミリもない。懐かしさがこみ上げて、胸が苦しくなった。


「なんでなの、沙織ちゃん……」

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