ハロー、愛しのインスタントヒーロー
歩道で蹲る私に声を掛けてくれたのは、紛れもなく沙織ちゃんだった。
背中をさする手が、柔らかい喋り方が、昔を思い出させる。優しくて面倒見のいい、理想のお母さん。
もう会えないと思っていた。私が絢斗を選んだから、絢斗が私を選んだから、その優しさは七年前に葬られたのだと思った。
「私のこと、なんで助けたの……?」
嫌いでしょう。憎くてたまらないでしょう。煩わしくて、鬱陶しくて、今すぐにでも消えて欲しいと思っているはずだ。私が沙織ちゃんなら、間違いなくそう思うはずだ。
それなのに、どうして。
「なんでって言われても……具合悪そうだったから」
濡れたタオルを片手に、彼女がこちらへ近付いてくる。首に巻いておきなさい、と頭を軽く持ち上げられた。
「たぶん熱中症ね。ちゃんと体冷やして、水分たくさん摂らないとだめよ」
「沙織ちゃ、」
「今はとにかく寝てなさい。夕飯作ったらまたこっちに来るから」
何か食べたいものある?
最後に付け足された質問。そんなことを聞かれたのは、本当にいつぶりだろう。
「……沙織ちゃんの、生姜焼き」
思い浮かんだものをそのまま口にすると、「それが食べられるなら心配なさそうね」と彼女は肩を揺らした。