ハロー、愛しのインスタントヒーロー
「ごちそうさまでした」
時刻は午後八時過ぎ。あれから私は一時間ほど眠っていたらしい。
宣言通り再びこちらに戻ってきた沙織ちゃんは、生姜焼きとおにぎり、それからスープポットに豆腐とわかめの味噌汁を入れて持ってきてくれた。
自分でも恥ずかしいくらいたくさん食べてしまって、昨日までの食欲のなさは何だったんだ、とため息をつきたくなる。
「ちょっと顔色良くなったわね。良かった」
微笑んだ彼女の目尻が緩やかに垂れ下がる。
『沙織ちゃんは、奈々ちゃんのこと嫌いなんかじゃないよ』
やっぱり分からない。以前向けられた鋭い視線も、いま向けられている穏やかな表情も、どっちも本物だからだ。
好きか嫌いかじゃなくて、好きと嫌いが混在している。
「絢斗とは、会ってないんだってね」
私の胸中を見透かすように、沙織ちゃんが切り出した。無意識のうちに身構えてしまう。
「……満足ですか」
絢斗が私に会いたいと思わないように関係を終わらせろ。それが当初の彼女の要求だった。
全くそうした覚えはなかったのに、結果として絢斗はいま私に会おうとしていない。関係が終わったかは定かでないけれど、そもそも始まってすらいなかった。
ああ、でも確かに、「幼馴染」という関係は終わったのだ。
「満足?」
彼女が目を伏せて自嘲気味に笑う。
「いいえ。完敗よ」