ハロー、愛しのインスタントヒーロー
ひやり、ざらりと心臓が蠢いた。一瞬呼吸を忘れてしまう。
よくできた彫刻品のように綺麗で無機質な彼が、私を見下ろしている。
「じゃ、そういうことで。今日は帰るよ。奈々チャン」
誰も引きとめることはできない。彼の言うことは絶対だ。そう思わせる雰囲気を纏っている。
なるほど、確かに。日比野くん以上に生徒会長に相応しい人なんていないわけだ。
立ち尽くしていた絢斗が、怖々と口を開いた。
「……奈々ちゃん、大丈夫?」
「は、」
「えっと、ごめんね。僕のせいで、彼氏さん帰っちゃって……」
言葉が出なかった。
こいつは話を聞いていなかったんだろうか。聞いていて言っているんだろうか。
どっちでもいい。何だか、急に疲れてしまった。
「別に、彼氏じゃない」
「えっ、そうなの? じゃあ友達?」
「そうだよ」
階段をのぼる。絢斗がなぜかついてくる。
ドアの前まで辿り着き、鍵を開けた。
そっかあ、友達かあ。浮かれた口調で繰り返す彼に、そうだよ、と私も再度肯定する。
「気持ちいいことだけする友達、ね」
きっぱりと絢斗の顔を見て告げ、目の前でドアを閉めた。