ハロー、愛しのインスタントヒーロー


夢を見た。お母さんがご飯を作ってくれて、お父さんも一緒に食卓を囲んでいる夢。
玉子焼きはしょっぱくないし、部屋の空気も冷たくない。

目が覚めると、当たり前に冷たい部屋があった。
どうして私はこんな現実を生きているのだろう。夢が覚めなければいいと思う。その方がずっと楽で幸せだ。

苦しみながら生きている意味なんて、あるのだろうか。

その答えは見つからなかったから、夢を見ることにした。
適度な痛みが現実だと教えてくれて、繋がる度に伝わる熱が心地いい夢に誘ってくれる。痛さが気持ちよさに変わっても、夢は覚めない。温かいのだ。どうしようもなく温かくて、その熱さえあれば私はどうでも良かった。


『此花さんって、マエダくんとシたらしいよ』

『キノシタくんともそういうことしてるって聞いた~』

『ノノミヤさんが彼氏と別れたのって、此花さんが原因なんだって』

『あり得なさすぎ。サイテー』


クラスの女子があからさまに私を避けるようになった。別にいい。彼女たちが言っているのは本当のことだから。

でも、ふざけるな、と思った。
あんたらみたいに、好きに習い事をさせてもらって、帰ったら温かいご飯が用意されていて。みんながみんな、そうだと思うなよ。それが当たり前だと思うなよ。

頭がお花畑。平和が一番だよね、とか何にも知らないくせに口だけで言っているあんたらに、私の生き方をとやかく言われたくはない。

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