ハロー、愛しのインスタントヒーロー
ドアを開けた。おどおどしている絢斗の首根っこを掴んで、思い切りこっちに引き寄せる。ぐえ、とカエルのような音が聞こえたけれど気にしない。
絢斗を叱っていたのは、常日頃から小言の多い薄毛のおじさんだった。
すみませんでした、と事務的に述べて、絢斗にも頭を下げさせる。
「ゴメンナサイ」
「全く、急にびっくりするだろ。気をつけなさい」
おじさんの長いお説教を回避すべく、絢斗を玄関に押し込み、「はい、ちゃんと言っておくので」と半ば強制的に話を畳んでドアを閉めた。
「はー……怖かった……」
肩を落とした絢斗が深々と息を吐く。
「あんたが声でかいからだよ。近所迷惑だからやめてよね」
「うん、気を付ける。ごめんね」
靴を脱いで廊下を数歩進んだところで、「奈々ちゃん」と呼び止められた。
仕方なく顔だけ振り返る。ラーメンが伸びるので早くして欲しい。
「僕、中入っていいの?」
「帰りたいなら帰れば。今出たらさっきのおじさんに会うかもよ」
「え! それはやだ!」
「じゃあ早く上がりなよ」
「うん。お邪魔します」
ぺこりとお辞儀をして、絢斗がスニーカーを脱ぐ。それをきちんと揃えてから私の後ろをついてきたので、全然変わっていないな、と思った。