ハロー、愛しのインスタントヒーロー
「奈々ちゃん、嘘ついたでしょ」
部屋に入って早々、絢斗がカップラーメンを指さす。
蓋を開けてみたけれど、一口も食べていないのに減るどころか増えていた。完全にぶよぶよだ。
「何が?」
「ご飯もう食べたって言ってたじゃん!」
「これは食後のデザート」
「また嘘つくー! あ、そうだ」
紙袋からタッパーを取り出して、絢斗は得意げに私を見やる。
「沙織ちゃん特製、豚の生姜焼き! すっごくいい匂いでしょ」
どうだ、と言わんばかりに蓋を僅かに開けて見せびらかしてきた。そもそも自分が作ったわけでもないのに、なぜ彼がそんな顔をしているのか。
沙織ちゃん、というのは絢斗のお母さんのことだ。彼は昔からそう呼んでいる。
「ほらほら、匂い嗅いでたらお腹空かない?」
「あんまり傾けると零れるよ」
そそっかしいというか何というか。体は大きくなっても、彼の根本的な部分は変わっていないらしい。
と、その時。ぐうう、と空腹を告げる音が鳴り響いた。
「…………や、やっぱり、奈々ちゃんお腹空いてたんだね」
「あんたの音でしょ」
「へへ」