ハロー、愛しのインスタントヒーロー
軽く体を洗い流してからリビングに戻れば、男は未だにベットの中だった。スマホを弄りながら視線だけこちらに寄越してくる。
「腹減んない? もう昼だって」
時計を見ると、時刻は確かに正午を回るところだ。しかし、起きてすぐということもあってか、あまり何かを食べたいとは思わなかった。
「そこにカップ麺あるから、食べたかったら適当にどうぞ」
「えー、奈々は?」
「私はいらない」
端的に言い捨て、ドライヤーを手に取る。
インスタントもレトルトも食べ飽きた。冷凍食品、コンビニ弁当、どれもこれも同じ味がする。私の味覚がおかしいのだろうか。
それでも、わざわざキッチンに立って料理をする気にはなれなかった。一体誰のためにそんな手間をかけて、時間もかけて作る必要があるのか、全く分からない。
「てかさー、ほんとに冷蔵庫空っぽなんだけど。普段何食べてんの」
この男にモラルというものは備わっていないらしい。人の家の冷蔵庫の中身を勝手に物色し、文句を垂れている。
昨晩、肌を重ねている間はどうということもなかったけれど、今この瞬間、自分の日常生活に入り込んでくる感覚がどうにも気持ち悪くて、顔をしかめた。
「どうでもいいじゃん。てか、なるべく早く帰ってよね」