ハロー、愛しのインスタントヒーロー
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時間にしてはほんの三秒。けれども、申し訳程度の温さを伝えてくる唇と、冷たい指先の感覚が刻まれていく。
わけも分からず始まり、わけも分からず終わった。どこまでも相手本位のキスに、混乱で固まってしまう。
「日比野くん、」
「何その腑抜けた顔。キスくらい何度もしてるでしょ?」
キスもその先も、もはや数えきれないくらい済ませてきた。でもそれは、目の前にいるニセ彼氏となんて、ただの一度もしていない。
日比野くんは今までそんな素振りすら見せなかった。女の子と散々遊んでいるとはいえ、私に対して性的な衝動をぶつけてきたことは本当に一度もなかったのだ。
だからこそ今、俄かに信じ難かった。こんな生産性のないキスを、突然かますような人には見えなかったからだ。
「あ……そうじゃなくて。ごめん、せっかく気遣ってくれたみたいだけど、」
「そこの幼馴染と付き合うことにしたから、もう俺は用済みって?」
「え? いや……」
違う、と弁解しようとして、思わず口を噤む。
いま彼は、絢斗のことを私の「幼馴染」と言ったのか。どうして? 絢斗のことは一切話していないはずなのに。
「さすが経験豊富な奈々ちゃんは違うね。キスくらいじゃ全然動揺しないんだ? つまんないなあ」