ハロー、愛しのインスタントヒーロー
つまんないと言いながら、日比野くんは心底楽しそうに口角を上げる。
「まあ、いっか。そこの奴にはかなりダメージ与えられたみたいだし」
その言葉に後ろを振り返れば、絢斗が愕然とした様子で立ち尽くしていた。無理もない。私ですら相当びっくりしたのだ。顔に出ないタチなだけで。
「日比野くん、あの」
「ほらどいたどいた。あー、あんたはこっちね」
通路の真ん中にいた絢斗を押し退け、日比野くんが私の腕を引っ張りながらつかつかと進んでいく。
彼は私の家のドアの前で立ち止まり、あろうことかスラックスのポケットから鍵を取り出した。
「な――何で、鍵」
慌てて自分の鞄の中を確認する。いつも家の鍵を入れているはずのそこは、既に空っぽだった。
まさか、と血の気が引く。
「駄目だよ、大事なものはバレにくいところにしまっておかないと。暗証番号を定期的に変えろっていうのと同じことだよね」
彼が意味のないことをするわけがないのだ。恐らくキスの瞬間、私が完全に油断した隙に鍵を盗ったとしか考えられない。
あっけなく開錠されたドアの向こうへ私を押し込み、日比野くんはそのまま滑り込むように自らも内側に入ってきた。
かちゃりと、無情にも鍵がご丁寧に閉められた音がする。
「どういうつもり……?」