ハロー、愛しのインスタントヒーロー
絢斗もまた、全力でドアを叩いていた。ひ弱な男子高校生が何度叩いたところで壊れも開きもしないのは、この場にいる誰もが分かっていただろう。
だからこそ私は焦ったし、日比野くんは余裕ありげだった。
「ちょっと黙ってくれるかな。ただでさえタイプじゃなくて萎えそうなのに」
「なっ……! 奈々ちゃんから離れろ! バカ!」
私を組み敷く男の手が、太ももの内側を撫でる。
「全然濡れてないけど、突っ込めばどうにかなるかな?」
「やだッ! 嫌! あ、う、」
下着の上から乱暴に擦られ、久しぶりに性行為に対して恐怖と悪寒が蘇った。
どれだけ色んな人と体を重ねても、それとこれとは別だ。この男は、私を傷つけることしか眼中にない。
「奈々ちゃん!!」
絢斗の悲痛なまでの叫びが鼓膜を揺らした。それだけが、今は一筋の光だ。絢斗がここにいなかったら、きっと私は中学生の時のように無抵抗を決め込んでいただろう。
絢斗がいるから、私は――。
「うるさいなあ」
日比野くんが煩わしそうに眉根を寄せる。顔だけドアの方に向け、彼は吐き捨てた。
「そこで黙って聞いてなよ、大好きな奈々ちゃんが喘ぐの。どうせお前は何にもできないんだから」