ハロー、愛しのインスタントヒーロー


は、と呆れたような吐息が私を嘲笑う。

回らない頭を必死に奮い起こして記憶を辿っていた時、ドア越しに絢斗の弱々しいクエスチョンが届いた。


「…………しずか、くん?」


どうやら、絢斗には思い当たる節があるようだった。
未だ分からず眉をひそめる私にはお構いなしに、日比野くんが「正解」と絢斗へジャッジを下す。


「地味で、ドジで、のろま……いっつもいじめられてた、“しずかくん”だよ」


それを聞いて、ようやく、ぼんやりと、記憶の欠片が色を取り戻してきた。

地味でドジでのろま。まるで絢斗のことを揶揄しているようだけれど、違う。
絢斗は確かに鈍くさい。でもそれは、あくまで私がそう思っているだけだ。他の人はみんな絢斗のことを「穏やかで優しくていい子」と言った。むしろ絢斗は昔から要領がいい方で、そんな彼を妬んで、クラスの男子が絢斗をいじめたことがあった、という話なのだ。

だから、そう。常にいじめられていたのは、いじめの標的にされていたのは。


『なあ、ちょっとはしゃべろよ、しずかくーん』

『こいつまじでなんも言わねー! “しずか”じゃん!』


ああ、そうだ。確かにいた。
同じ小学校に、教室に、一人いつも静かに黙りこくっている、眼鏡をかけた男の子が。


「思い出したみたいだね。久しぶり、ななちゃん?」

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