ハロー、愛しのインスタントヒーロー
今の今まで、全く気付かなかった。
程よく清潔に切り揃えられた黒髪、華奢だけれどしっかり伸びた背、眼鏡を取っ払った冷たい瞳。いや、冷たく見えるのは、彼が私に向けた感情のせいだろうか。
日比野くんは――しずかくんは、あの頃と比べて随分変わった。
小学生の時は、両目が隠れるくらい長い前髪が野暮ったくて、しかも眼鏡をかけているから、彼の顔を、表情をしっかり見たことなんて一度もなかった。
何も喋らなくて静かだから、しずかくん、とみんな呼んでいて、彼を苗字で呼ぶ人は皆無だった。
いま再び出会った彼は私の中で生徒会長の「日比野くん」でしかなく、イコールで結びつけることは至難の業だったと言ってもいい。
「……ごめん、全然分からなくて。あんまり変わってたから……」
でも、と続ける。
「こんなことしなくても、言ってくれれば良かったのに……」
私がそう伝えた刹那、日比野くんが目を見開いた。
「は? 何、あんた、まさか忘れたなんて言わないだろうな」
「……何を、」
「ふざけんなよ!」
怒声と共に、拳が床に打ちつけられる。彼の怒りは固い音がした。
「小二の時だ。絢斗がいじめられるようになって、俺はしばらく標的から外れた。でもずっと見てるだけなのが胸糞悪くて、止めに入ったんだ」