ハロー、愛しのインスタントヒーロー
だから、私は姉ちゃんじゃないってば。そう訂正しようと口を開いたけれど、目に入ったもののせいで、実際に発したセリフは変わってしまった。
『あやちゃん、けがしてる! はやく先生にみてもらおう?』
転んだのか転ばされたのか。絢斗の膝からは血が出ていて痛々しかった。
すっかり地面に座り込んでしまっている絢斗の両腕を引っ張り、半ば強引に立ち上がらせる。
そのまま手を引いて走り出した私に、絢斗は泣きながら言った。
『ななちゃん、ひざ痛いから、ゆっくりあるいて』
『もー! また泣いてる! 泣かないの!』
『ななちゃん、あのね』
『なに?』
ちらりと後ろを振り返った絢斗が、迷ったようにまた私を見る。
『……ううん、なんでもないよ』
私たちはその後、保健室に行った。――じゃあ、あの後、しずかくんは?
思い出せないのではない。知らないのだ。
そもそも私は、私たちは、しずかくんを置いて立ち去ってしまったから。
「確かに止めに入ったよ。絢斗をいじめるなって、あいつらに言ったことは今でも間違ってないと思ってる。でもな」
目の前にいる日比野くんに、焦点が合った。
「あの時、俺には目もくれず絢斗だけを連れ去ったあんたを、それを許した絢斗を――お前ら二人を、俺はずっと許せなかった」