ハロー、愛しのインスタントヒーロー


日比野くんが手を伸ばしてくる。その指先が震えていて、弱々しくて、でも抵抗しなかったのは、そのせいじゃない。


「お前ら、なんか……」


頬にぬるい雫が落ちてくる。下から真っ直ぐ見上げた彼の瞳に、確かな温度を見つける。

――ああ、しずかくん、そんなところにいたんだね。
十年経って、やっと君のことを思い出した。それは私のせいだ。私が悪い。

私はいつだって、絢斗のことばかりだった。後ろをついてくる絢斗。鈍くさい絢斗。でもみんなの人気者で、常に可愛がられていた絢斗。
周りからしたら、きっと呆れるくらい私は絢斗のことばっかりで、絢斗は私のことばっかりだった。ずっと一緒、二人ならなんにもこわくない。

だから、私も絢斗も、周りをおざなりにしてしまっていたのだと思う。
絢斗がいればそれで良かったから。絢斗のことが大切で、優先順位はもちろん絢斗が一番上だったから。絢斗にとって私も、恐らくそういう存在だったから。

一体、いくつの記憶を投げ捨ててしまったのだろう。悪気なく、けれども確実に見て見ぬふりをした無慈悲の数々。日比野くんのことだけじゃない。きっと、他にもたくさんあるはずだ。

大切にするということは、それと同時に、大切ではないものを忘れるということなのか。私は器用な人間じゃないから、絢斗のことしか大切にできなかった。


「日比野くん」

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