ハロー、愛しのインスタントヒーロー
私の上に乗ったまま唇を噛み締めて項垂れる彼に、先ほどまでの勢いは見受けられない。もう忘れないように、見逃さないように、彼の顔をしっかりと見つめる。
日比野くんが私のワイシャツを、くしゃりと握った。
「だってあんたは、どこまでも絢斗のことだけだった……俺のことを覚えてないくせに、それでも俺を利用した、絢斗のために……」
そうだね、その通りだ。
どうにも抗えないのかもしれない。心の中にはまだ幼いままの私が住んでいて、絢斗を大切にしていた頃の自分が体育座りで絢斗の帰りを待っていて、今も多分、待ち続けている。
「……羨ましかったんだ」
思わず、といった具合に零れた彼の言葉。寂しさの色が浮かんでいる。
「あんたと絢斗みたいに、自分のことを誰よりも優先してくれる、絶対的な存在がいるってことが」
「日比野くん――」
刹那、外側からの開錠音が聞こえた。光が射しこむのと同時、既に解放されていた両腕で胸元を隠す。
「奈々ちゃん、大丈夫!?」
勢いよく開いたドア。真っ先に顔を出したのは絢斗で、その後ろに大家さんがいる。
なるほど、大家さんに頼んで合鍵で開けてもらったわけだ。絢斗にしては賢明な判断である。
「どっ、どうしたの此花さん……!? その恰好、」
「お騒がせしてすみません。大丈夫です」