ハロー、愛しのインスタントヒーロー
まあ、とでも聞こえてきそうな仕草で口元を押さえた大家さんに、努めて淡々と述べる。素早くワイシャツのボタンを留め直した。
「この人、彼氏なんです。びっくりしただけだったんですけど、その声をなんか勘違いされたみたいで。なので、本当に、大丈夫です」
私の上から退いて俯いていた日比野くんが、こちらを見やる。
何とか大家さんに退却してもらい、深く息を吐いた。
「奈々ちゃん!」
途端、絢斗が耐えかねたように私のそばに膝をつく。そのまま両肩を掴まれ、ひどく真っ直ぐな瞳に射抜かれた。
「何されたの!? ケガしてない? どっか痛いところない?」
「絢斗、痛い」
「どこ!?」
「絢斗の手、痛いから離して」
「あっ、ごめん!」
降参をするかのように両手を挙げ、それでも彼は心配そうに私をじっと見つめている。大丈夫だから、と投げやりに答えても、その視線は不満げだ。
本当は打ちつけた背中がじんじんとしているけれど、それ以上に色んな感情が渦巻いていて、体を気にしている場合ではなかった。
「奈々ちゃん、また嘘ついた」
「は?」
「手首赤いよ。目も。やっぱり酷いことされたんだ」