ハロー、愛しのインスタントヒーロー
手首はまだしも、目が赤いのはさっき絢斗と言い合った時に泣いたからであって、あんたのせいなんだけど。
そう返そうとして息を呑んだ。絢斗がいつになく目尻をつり上げて、明らかに憤怒の表情を浮かべていたからだ。
「絢斗?」
私から視線を外したかと思えば、立ち上がって拳を握る。そしてあろうことか、日比野くんの胸倉を躊躇なく掴んだ。
「――しずかくん、ごめん。一発殴らないと気が済まない」
ごめん、とは一ミリも思っていないような低い声が合図だった。
日比野くんの右頬にその拳が入った瞬間、反射的に顔を逸らしてしまう。
重い音は、日比野くんがよろけて床になだれ込んだ拍子に鳴ったようだった。
「絢斗、……なに、して」
仁王立ちの背中に、恐る恐る口を開く。と、
「痛ったぁ~……」
へろへろと座り込み、今しがた日比野くんを打った自身の拳をもう片方の手でさすりながら、絢斗が情けなく嘆いた。
何だこいつ、という感想が浮かんでしまう。
「初めて殴ったけど、すっごい痛いね……しずかくん、大丈夫?」
自分で痛めつけておきながら心配するだなんて、サイコパスの所業だ。しかし絢斗は至って真面目に問うている。
「……何なの、お前」