ハロー、愛しのインスタントヒーロー
見覚えがある。記憶に残っている顔と、大して変わっていない。
そして仲睦まじい夫婦の後ろから、決定的な人物が姿を現した。
私と同じくらいの――否、きっと同い年の少年。分かる。分かってしまう。
目を逸らしたい、逸らさなければ。焦りが充満していくばかりで、実際には全くよそ見なんてできなかった。
あまりにも見つめすぎていたからだろうか。ふとこちらに目を向けた彼が、元々大きい瞳を、更に大きく見開く。
――“ななちゃん”。
彼の口元は、確かにそう動いた。
瞬間、金縛りが解けたように踵を返す。中に入り、急いで鍵を閉め、そのまま玄関ドアに背をつけてずるずると座り込んだ。
「……うそ、」
まさか、本当に彼なのか。あり得ない。どうして今更、ここに帰ってきたんだ。
心臓が早鐘を打つ。息を上手く吸えない。視界が滲んでくる。
その時、静寂を破ってインターホンが鳴った。
「奈々ちゃん、いますか?」
後ろから突かれたような衝撃だ。胸が痛い。
ドア越しの声はすっかり低くなっていて、それでも音の震え方と、私の名前をなぞる柔らかい響きは、耳に馴染みのあるものだった。
「奈々ちゃん、僕です。暮町絢斗です」