ハロー、愛しのインスタントヒーロー
知っている。きっと、わざわざ丁寧に自己紹介をされなくとも分かっていた。彼を見た瞬間に確信した。
改めて聞いてみると随分綺麗な名前だ。昔は漢字がよく分かっていなかったから、音の響きだけで彼らしい名前だと思っていた。
暮町絢斗。フルネームの漢字を知ったのは、彼がいなくなってから。手紙の文字で、だった。
「奈々ちゃん、いるんだよね?」
彼が切々と訴えかけてくる。
「開けてよ。話したいこと、いっぱいあるんだよ」
知らない。そんなの、あんたの勝手な都合だ。私はあんたと話すことなんて何もない。
だから、頼むから、もう私の名前を呼ばないで欲しい。
ドアノブを捻ろうとしているのか、かちゃかちゃと金属音がする。それが無理だと分かると、今度は直接ドアを叩いてきた。
「ねえ、奈々ちゃん! 開けてよ!」
苦しい。心臓をずっとノックされているみたいで、ひたすらに苦しい。
唇を噛んで沈黙を貫く。
相手はかなりしつこかったけれど、一切返事を寄越さない私に痺れを切らしたようだ。また来るね、と言い残し、騒音が止む。
「……何なのよ、ほんと……」
またな、とか、また来るね、とか。どいつもこいつも、今日は最悪だ。
――七年前、いなくなった幼馴染が、この町に帰ってきた。