ハロー、愛しのインスタントヒーロー
じゃあ一体、私にどうしろと。
そう思ったのが伝わったのか、彼女は僅かに眉尻を吊り上げて告げた。
「この一年で絢斗との関係を終わらせて欲しいの。もうこの先、二度と会いたいだなんて思わないように」
手から力が抜けて、冊子がぱたりと床に落ちる。拾う気力はない。
「皮肉だけれど……それができるのはあなたしかいないわ。あなたが直接、絢斗に言ってくれないと終わらない」
「……そのために、私と絢斗を会わせたんですか」
終わらせるために始めた。そんなの、金輪際会うなときっぱり言われた方がましだ。
もう一度、作り直せるかもしれないと少し期待していた。絢斗から沙織ちゃんの名前が出た時、沙織ちゃんと会った時、この家に呼ばれた時、もう既に分かっていたのに。
――きっとこの先、私たちがずっと一緒にいられる未来なんてないということ。
「沙織ちゃーん! ジュース零しちゃったー!」
一階から絢斗の呑気な声が聞こえてくる。
「今行くからちょっと待って」
踵を返そうとした彼女に、私は問いかけた。
「沙織さん。あなたが絢斗から私を遠ざけようとする理由は何ですか?」