公認ラヴァ〜それでも愛してる〜
部長の家は閑静な住宅街の戸建てだ。
たしか、奥さんが社長の娘で奥さんには男兄弟がいないため、部長が時期社長になると言われている。
「連絡もせずに来てしまってよかったのかな」
怖じ気づくオレに
「こういうのは早く行動を起こした方がいいの」
と言うと、躊躇無くインターフォンを押した。
有佳の行動力に今更ながら気がつき驚いた。
「どちら様?」
女性の声が聞えてきた。
家政婦だろうか?何て言おうかと思っていると
「夜分すみません、片桐賢也とその妻の有佳ともうします。いつも桑原部長にお世話になっております」
「そう、会社の方なのね」
「はい、失礼かと思いましたが急ぎ謝罪をさせていただきたくて伺いました。失礼ですが奥様でしょうか?」
「はい、桑原の家内です」
「それでは、奥様からも私どもの謝罪を受けて頂くべく口沿いをお願いできませんでしょうか」
インターフォンの向こうで「ふっ」という笑いのあと
「どうぞ」問う声と共に門が開いた。
営業部でも成績のいいオレよりもずっと営業が上手いのかも知れないと思った。
玄関には二組のスリッパが用意され、年齢に見合った上品で綺麗な女性が立っていた。
「ご無理を聞いて頂きありがとうございます。急いで来てしまったため、手ぶらで来てしまい申し訳ございません。後日お礼を送らせていただきます」
「いいのよ、よほど急いでいらしたのね」
「さあ」と言ってリビングに通してもらえた。
ソファには桑原部長が不機嫌そうに座っている。
本当に大丈夫なんだろうか・・・
「夜分遅く失礼します」
「まったく失礼にもほどがある。どういうつもりだ」
有佳にばかり謝罪させては申し訳ないと思い
「申し訳ございません」
「謝罪をしたところで、あの話は変わらんぞ。奥さんを連れてきたところで無駄だ」
何も言えなくなり頭を下げるだけだったオレの隣で有佳は何かをバックから取り出し膝の上に置いていた。
「大森恵美さんにはなにか処分はあったのですか?」
その一言に部長が一瞬動きを止める。
「いや、彼女は言いにくいことだが片桐君に騙されたと言っていたから」
「それでは、大森さんはなにも処分はないのですね、それは少しおかしいように感じます」
「お・・おかしいとは何だ」
部長は声を荒げて威圧的な態度を取り始めるが有佳は依然落ち着いている。
「大森恵美さんとは会社のロビーで少しお話させていただきました。受付の三輪さんがご存じだと思います。その時、大森さんは私にとても口にできないような言葉で私を愚弄し、はやく離婚しろと迫りました。音声もございます、とても主人一人が悪いように思えないのです。ところが今回、処分されるのは主人だということは大森さんと関係があった男性のみが処分対象になるということになるわけですよね」
大声で怒鳴りつけるように「何を言っているんだ!」と立ち上がった所に、部長の奥さんがお茶を持って歩いてきた。
「あなた、そんな大声を出してきちんとお話をお聞きになって」
奥さんの一言でおとなしくソファに座る
「ごめんなさいね」と言いながらお茶をテーブルに置いていく
「どうぞ、お構いなく。ですが、奥様にも聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「わかりました」と言って部長の隣に座った。
「先ほどからの話ですと、主人だけではなく処分を受けないといけない人がいるのでは無いかと思いまして」
奥さんは部長に向って「そうなの?あなたご存じ?」と聞いているが、部長は頭を傾げている。
有佳は先ほどバッグから取り出していたものをテーブルの上に並べていった。
それは部長と大森さんが腕を組んでホテルに入っていく姿と出てくる所の写真だった。
部長は慌てて写真をかき集めようとしたが、一枚は奥さんの手の中にあった。
「先ほどの話は聞えておりました。たしかに、この女性と関係があるならあなたも処分を受けなくてはいけないですわね」
「いや・・・その・・これは違うんだ」
どうやらパワーバランスは奥さんに大きく傾いているようだ。
部長は慌てながら「もう、済んでいることなんだ。手切れ金も渡して綺麗さっぱり別れている、本当だ!」
部長が金を・・・
「オレも大森さんに100万を渡してます。手切れ金として・・・」
「なんだと!そんなこと恵美は何も言ってないぞ。しかもわたしも100万を要求された」
「恵美ですって?」
部長は奥さんの一言にソファから飛び上がりそうになっていた。
結局、大森さんは自分の懐はまったく痛んでいないということ・・・
それ以前に大森さんの恋人って部長だったんだ・・・
「私は離婚をするつもりで主人と大森恵美さん双方に慰謝料の請求書と誓約書を郵送しました。その結果、大森恵美さんから慰謝料200万円を受け取りましたが、主人とは話し合いの結果離婚はせず慰謝料の支払い請求も取り下げました。これらの行動を起こすため、興信所を使用し大森恵美さんと主人の行動を追っている時に桑原部長と大森恵美さんの関係がわかりました」
有佳は一度深呼吸するとまた話し始めた
「大森恵美さんが“同時期”に桑原部長と主人の二人と交際していたことは間違いがないのに、大森恵美さんと桑原部長は処分がなく主人だけが、私と離婚をして大森恵美さんと結婚するか単身で地方へ移動するかという選択を迫られたことに疑問を感じます。もし、主人だけが処分されるのでしたら、社長にことのすべてをお話させていただきたいと思い奥様にも話を聞いていただきました。とても不愉快なことで大変申し訳ありませんでした」
「そんな条件を!」
いままでとても穏やかに話を聞いていた奥さんが感情もあらわに言い放つ。
「自分の保身の為に、そんな条件を!公私混同にもほどがあります。なにより、一番の被害者である片桐さんの奥さんになんて酷い仕打ちをしようとしていたのか!」
部長に対して強く話していた奥さんが有佳に向って頭をさげた。
「こんなバカな話で傷つけてしまってごめんなさい、この件に関してわたしが責任を持ちます。安心して」
「わかりましたか!あ・な・た」
部長はソファの隅でただただ小さくなっていた。
「ありがとうございます、夜分失礼いたしました」
有佳は頭を下げ、立ち上がる。オレも慌てて立ち上がって頭を下げた。
部長の奥さんは玄関先まで見送ってくれて有佳にニッコりと微笑むと
「片桐有佳さんっていいましたっけ」
「はい、奥様」
「今度はお一人でいらして、ちょっとまっていてくださる?」
奥さんは一旦リビング向うとスマホを片手に戻って来た。
「連絡先を教えてくださる?」
有佳は満面の笑みで
「是非よろこんで」
と答えていた。
たしか、奥さんが社長の娘で奥さんには男兄弟がいないため、部長が時期社長になると言われている。
「連絡もせずに来てしまってよかったのかな」
怖じ気づくオレに
「こういうのは早く行動を起こした方がいいの」
と言うと、躊躇無くインターフォンを押した。
有佳の行動力に今更ながら気がつき驚いた。
「どちら様?」
女性の声が聞えてきた。
家政婦だろうか?何て言おうかと思っていると
「夜分すみません、片桐賢也とその妻の有佳ともうします。いつも桑原部長にお世話になっております」
「そう、会社の方なのね」
「はい、失礼かと思いましたが急ぎ謝罪をさせていただきたくて伺いました。失礼ですが奥様でしょうか?」
「はい、桑原の家内です」
「それでは、奥様からも私どもの謝罪を受けて頂くべく口沿いをお願いできませんでしょうか」
インターフォンの向こうで「ふっ」という笑いのあと
「どうぞ」問う声と共に門が開いた。
営業部でも成績のいいオレよりもずっと営業が上手いのかも知れないと思った。
玄関には二組のスリッパが用意され、年齢に見合った上品で綺麗な女性が立っていた。
「ご無理を聞いて頂きありがとうございます。急いで来てしまったため、手ぶらで来てしまい申し訳ございません。後日お礼を送らせていただきます」
「いいのよ、よほど急いでいらしたのね」
「さあ」と言ってリビングに通してもらえた。
ソファには桑原部長が不機嫌そうに座っている。
本当に大丈夫なんだろうか・・・
「夜分遅く失礼します」
「まったく失礼にもほどがある。どういうつもりだ」
有佳にばかり謝罪させては申し訳ないと思い
「申し訳ございません」
「謝罪をしたところで、あの話は変わらんぞ。奥さんを連れてきたところで無駄だ」
何も言えなくなり頭を下げるだけだったオレの隣で有佳は何かをバックから取り出し膝の上に置いていた。
「大森恵美さんにはなにか処分はあったのですか?」
その一言に部長が一瞬動きを止める。
「いや、彼女は言いにくいことだが片桐君に騙されたと言っていたから」
「それでは、大森さんはなにも処分はないのですね、それは少しおかしいように感じます」
「お・・おかしいとは何だ」
部長は声を荒げて威圧的な態度を取り始めるが有佳は依然落ち着いている。
「大森恵美さんとは会社のロビーで少しお話させていただきました。受付の三輪さんがご存じだと思います。その時、大森さんは私にとても口にできないような言葉で私を愚弄し、はやく離婚しろと迫りました。音声もございます、とても主人一人が悪いように思えないのです。ところが今回、処分されるのは主人だということは大森さんと関係があった男性のみが処分対象になるということになるわけですよね」
大声で怒鳴りつけるように「何を言っているんだ!」と立ち上がった所に、部長の奥さんがお茶を持って歩いてきた。
「あなた、そんな大声を出してきちんとお話をお聞きになって」
奥さんの一言でおとなしくソファに座る
「ごめんなさいね」と言いながらお茶をテーブルに置いていく
「どうぞ、お構いなく。ですが、奥様にも聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「わかりました」と言って部長の隣に座った。
「先ほどからの話ですと、主人だけではなく処分を受けないといけない人がいるのでは無いかと思いまして」
奥さんは部長に向って「そうなの?あなたご存じ?」と聞いているが、部長は頭を傾げている。
有佳は先ほどバッグから取り出していたものをテーブルの上に並べていった。
それは部長と大森さんが腕を組んでホテルに入っていく姿と出てくる所の写真だった。
部長は慌てて写真をかき集めようとしたが、一枚は奥さんの手の中にあった。
「先ほどの話は聞えておりました。たしかに、この女性と関係があるならあなたも処分を受けなくてはいけないですわね」
「いや・・・その・・これは違うんだ」
どうやらパワーバランスは奥さんに大きく傾いているようだ。
部長は慌てながら「もう、済んでいることなんだ。手切れ金も渡して綺麗さっぱり別れている、本当だ!」
部長が金を・・・
「オレも大森さんに100万を渡してます。手切れ金として・・・」
「なんだと!そんなこと恵美は何も言ってないぞ。しかもわたしも100万を要求された」
「恵美ですって?」
部長は奥さんの一言にソファから飛び上がりそうになっていた。
結局、大森さんは自分の懐はまったく痛んでいないということ・・・
それ以前に大森さんの恋人って部長だったんだ・・・
「私は離婚をするつもりで主人と大森恵美さん双方に慰謝料の請求書と誓約書を郵送しました。その結果、大森恵美さんから慰謝料200万円を受け取りましたが、主人とは話し合いの結果離婚はせず慰謝料の支払い請求も取り下げました。これらの行動を起こすため、興信所を使用し大森恵美さんと主人の行動を追っている時に桑原部長と大森恵美さんの関係がわかりました」
有佳は一度深呼吸するとまた話し始めた
「大森恵美さんが“同時期”に桑原部長と主人の二人と交際していたことは間違いがないのに、大森恵美さんと桑原部長は処分がなく主人だけが、私と離婚をして大森恵美さんと結婚するか単身で地方へ移動するかという選択を迫られたことに疑問を感じます。もし、主人だけが処分されるのでしたら、社長にことのすべてをお話させていただきたいと思い奥様にも話を聞いていただきました。とても不愉快なことで大変申し訳ありませんでした」
「そんな条件を!」
いままでとても穏やかに話を聞いていた奥さんが感情もあらわに言い放つ。
「自分の保身の為に、そんな条件を!公私混同にもほどがあります。なにより、一番の被害者である片桐さんの奥さんになんて酷い仕打ちをしようとしていたのか!」
部長に対して強く話していた奥さんが有佳に向って頭をさげた。
「こんなバカな話で傷つけてしまってごめんなさい、この件に関してわたしが責任を持ちます。安心して」
「わかりましたか!あ・な・た」
部長はソファの隅でただただ小さくなっていた。
「ありがとうございます、夜分失礼いたしました」
有佳は頭を下げ、立ち上がる。オレも慌てて立ち上がって頭を下げた。
部長の奥さんは玄関先まで見送ってくれて有佳にニッコりと微笑むと
「片桐有佳さんっていいましたっけ」
「はい、奥様」
「今度はお一人でいらして、ちょっとまっていてくださる?」
奥さんは一旦リビング向うとスマホを片手に戻って来た。
「連絡先を教えてくださる?」
有佳は満面の笑みで
「是非よろこんで」
と答えていた。