禁忌は解禁された
「え?井田くん?」

一颯の部屋に着き、ソファに座らせた井田。
一颯の足元に跪き窺うように見上げて言った。

「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう!落ち着いてきたよ!」
「良かった!」
「………」
「姫?」
「不思議…」
「え?」
「井田くん、同い年なのにお兄さんみたいだなぁって!なんか、安心する…!」
「え…?」

「銀くんに似てるからかなー?」

「え?
━━━━━━━━また、それか……」

違う。
そんなことを聞きたいんじゃない!
銀二ではなく、俺自身を見てほしい。

「井田くん?どうし━━━━━━」

「………………姫は、俺の名前知ってますか?」

「え?
井田くんでしょ?」
「そうではなくて、名前です」
「真絋くん」
「もう一回」
「え?」
「もう一回、呼んでください」
「真紘くん」
「もう一回」
「真紘くん。
…………ん?どうしたの?」

「俺も姫に、名前を呼ばれたい。
若や暁生みたいに」

「わかった!これから“真紘くん”って呼ぶね!」
「はい!嬉しい!」
満面の笑みになる、井田。

「井田くん…////可愛い~!!」
「………」
井田は突然、ソファの背に両手をつき一颯を閉じ込めた。

「え………井田く…」
そしてグッと一颯に顔を近づけた。
「違いますよ、姫。
“ま、ひ、ろ”です」

「真紘…く…/////」
「はい。良くできました!
では、ゆっくり休んでくださいね!」

そう言うと、井田はゆっくり離れて部屋を出ていった。

「な、なんなの……////」
一颯は心臓がバクバク鳴り響き、しばらく放心状態だった。

対する井田は、してやったりという顔だ。
いつも、俺の方が翻弄されてるんだ。
このくらいはしてもいいだろうと━━━━━━



そして一方の颯天━━━━━━

かなり、落ち込んでいた。
自分でもびっくりだった。
一颯の“大嫌い”の一言に、頭がスーッと冷えて感情が消えてなくなったのだ。

わかっている。
一颯は悲しくて、つい…口から出たことくらい。

でも、大嫌いという言葉が一颯の口から出てしかも、自分に向けられたことに、心臓が抉られるような痛みを覚えたのだ。

「組長」
「え?」
「煙草、灰が落ちますよ?」
銀二が灰皿を颯天の口元に持ってきた。

煙草を咥えたまま、ボーッと考え込んでいた為灰が書類の上に落ちそうだ。

「あ、ごめん」
慌てて、煙草を灰皿に潰した。

「大丈夫ですよ」
見上げると、銀二が微笑んでいた。
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