禁忌は解禁された
「はぁーい!何?」
一颯が、襖に向かう。
そして襖を開けた。

「姫に、お客様です」
「うん、わかった!誰?」
多山(たやま)って方です。
組長の高校の時のご友人とか……?」

「多山…さん?
………誰だろ?颯天のご友人なのに、私に用なの?」
「はい。姫にとおっしゃってます」
「うん、わかった!とりあえず、応接室に通して?
どっちにしても、颯天のご友人なら大丈夫だろうし。真紘くん達もいるし」


「こんにち━━━━あ、道加さん!?」
応接室に入って、一颯と井田は驚愕する。
井田は、襖前に待機する。

「すみません、突然…」
「多山さんって、道加さんのことだったんだ…
ごめんね、苗字知らなくて…
あの、私に用って何ですか?」

「今日のこと、謝りたくて…ごめんなさい」

「え?そんな、わざわざ…ありがとう!
でも、気にしないで。
道加さんからすれば、余計に気持ち悪いだろうし」

「え?」

「ほら、颯天の…元カノさんだったわけだし」

「……って言っても、私はお姉さんの身代わりみたいな感じだったから」
「でも……それでも、初めてだった」
「え?」

「颯天が、女の子紹介してきたこと。
だから、身代わりってだけじゃなかったと思う。
だから、道加さんが羨ましくて……」
少し切なく微笑む、一颯。

「それは、こっちのセリフ………
━━━━━━!!!!?」
ふと、一颯の鎖骨に目が行く。
赤い内出血があった。
明らかな、キスマークだ。

「道加さん?」

「…………私は、お姉さんが羨ましい!!
なんで!?お姉さんのままでいてくれなかったんですか!?」

「道加さん……」

「私は!!“多山 道加”なのに、颯天は“神龍寺 一颯”として見てた。
いつも、いつも、いつも!!!!」
道加が一颯に飛びかかる。
そして二人が倒れて、道加が一颯に馬乗りになる。

「姫!!!?」

「真紘くん!!来ないで!!」
一颯は井田に目ふせする。

「あんたがいなかったら、私は……!!」
「うん、ごめんね…」

「私は、神龍寺 一颯じゃない!!」
「うん、貴女は道加さんだよ」

「別れてよ!!」
「ごめんね、それは出来ない」

「私に返して!!」
「ごめんね、出来ないよ」

その間、道加はひたすら一颯の胸の辺りを殴っていた。
一颯は決して抵抗せず、道加から目をそらさず見据え、ただ道加の怒りを受け止めていた。

ただ事じゃない雰囲気に、他の組員達も駆けつけてくる。
「「「姫!!!?」」」

「みんな、来ちゃダメ!!!」

井田や組員達は、ただ…拳を握りしめて見ていた。
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