禁忌は解禁された

一颯は、パタンとノートを閉じた。

｢真紘くんが、私を？
まさか……ね…｣

一颯は部屋を出た。


その数時間後、井田が暁生や他の部下と共に帰ってきた。

道加を始末し、森に埋めてきたのだ。

｢井田さん、お疲れ様でした｣
｢うん。暁生も、ありがと｣
｢いえ。一颯…あ、いや、姫の為なら何でもしますよ｣
｢いいよ。俺の前では、一颯って言っても。
…………でも、いいなぁ｣
｢え？｣
｢俺も、姫のことそう呼びたいな｣
｢呼べばいいじゃないすか？｣
｢は？ダメだろ！
若が絶対！許さねぇよ｣

｢はぁー、あの人ほんっと、頭固いよなぁー｣

｢まぁな｣
｢俺、若のこと嫌いだったけど、尊敬はしてた。
でもあの頭の固いのだけは、尊敬できない！｣

｢フフ…でも、やっぱ…若には敵わない｣


｢…………固くて悪かったな｣


｢ゲッ！！？若だ……｣
暁生が井田の背中に隠れた。

｢井田｣
｢はい｣
｢お疲れ様｣
｢はい。あの…若。
申し訳ありませんでした！
………また…姫を、傷つけてしまった｣

｢お前は、優秀だよ｣

｢え？｣
｢何故、元組長がお前を姫の護衛につけたと思う？｣
｢え？それは…今でも疑問です｣

｢お前が姫に、心底惚れてるからだ｣

｢え？｣
｢昔、聞いたことがあるんだ。
俺が姫の護衛を任された時に。
そしたら、組長が言ったんだ。
“お前が一颯に、心底惚れてるからだ”って！｣

｢そうだったんですか｣

｢だからお前は、何があっても一颯を“裏切れない”だろ？って。その命を懸けて一颯を守るから、お前をつけたって言われたんだ。
だから、井田も同じ理由だ｣
｢若…｣

｢それに、姫は俺達のたった一つの“光”だ。
この牢獄の中の、唯一の……
それは失ってはダメだ！絶対に！｣

｢はい！｣

｢早く、風呂入って休め。
暁生も！明日も早いぞ｣

｢はぁーい｣
｢はい、お疲れ様でした！｣

｢暁生！“はい”は短く！あと！姫を呼び捨てで呼ぶな！！｣

｢はい、はい！｣
｢フフ…｣


そして井田は風呂に直行し、部屋に戻る。
電気をつけると、テーブルの上にティーセットがあり手紙がそえてあった。

｢え？これ、姫……？｣

【真紘くん
お仕事、お疲れ様。
きっと…かなり疲れてるだろうから、このハーブティを飲んで寝てね！
リラックス効果があって、よく眠れるの！
あと…真紘くんが何をしていても、貴方は私の家族です。いつも守ってくれる、お兄さんみたいな人！それは、忘れないで！
一颯】

井田は、ノートを開いて手紙を貼り付けた。

◯月×日

姫をまた、傷つけてしまった。
俺はただ、姫に笑っててほしいだけなのに。
姫が俺を気遣って、ハーブティを用意してくれた。
俺は、人を殺してきたのに……
しかも、手紙まで書いてくれた。
これ程、嬉しいことはない。
…………でも、気持ちが益々、膨らんでいく。